搬送票の「枝」
総合病院の夜間搬送窓口で、北条夕映が朝の一覧を印刷した午前六時十分、放射線科から最後の依頼が入った。
「七階西の佐藤さんをCTへ。検査枠が空いたので、すぐお願いします」
搬送員はすでにエレベーターへ向かっている。端末の一覧には〈サトウ エリ・七〇二号〉と表示されていた。夕映が病棟へ確認電話を入れると、看護師は「佐藤さんなら準備できています」と答えた。
同じ階には、佐藤枝里と佐藤絵里という患者がいた。読みは同じで、年齢も近い。夜間の搬送一覧は氏名を読み仮名でしか表示しないため、二人とも〈サトウ エリ〉になる。
夕映は搬送員を止めた。
「部屋番号だけで連れて行かないで。患者番号の下四桁と生年月日を病棟で読み合わせてください」
詳細画面まで開くと、検査依頼は七〇八号室の佐藤枝里だった。搬送票を作る際、部屋番号だけが七〇二と手入力されている。七〇二号室の佐藤絵里は、別の手術を終えたばかりで安静指示が出ていた。
夕映は正しい患者の搬送を組み直し、放射線科へ到着が五分遅れることを伝えた。検査枠は守られ、間違った患者がベッドから動かされることもなかった。七〇二号室の患者には何も起きていない。それこそが、記録に残りにくい夜勤の成果だった。
後輩が、破棄箱へ入れかけた古い搬送票を拾い直した。
「電話で病棟も確認したのに」
「『佐藤さん』を確認しただけだった。確認の言葉が同じなら、二人いても一人に聞こえる」
夕映は依頼画面の表示幅を変えられない代わりに、夜間の搬送票へ患者番号を自動印字する設定を見つけた。朝の情報システム担当へ変更申請を送り、病棟との読み合わせ例も添えた。
彼女はこれまで、正職員登用の面接を二度断っていた。夜間窓口は目立たず、異動の多い職場で責任だけ増える気がしていたからだ。
だが、名前の一文字が表示されない場所を知っている人が、手順を決める席へ行く意味はある。
退勤前、夕映は三度目の登用案内へ〈面接希望〉と返信した。