星兎は呪いではなく空腹

王宮温室に棲む星兎ルルメは、子牛ほど大きな身体と、夜空のような毛を持つ魔獣だった。

以前は吉兆として愛でられたが、ある日から花壇を荒らし、侍女の籠を奪うようになった。目が赤く光るたび「魔力を吸う呪いだ」と恐れられ、誰も餌を置きに行かなくなった。

厨房の芋むき係アッシュは、夜食用の根菜を運ぶ途中で温室へ迷い込んだ。

茂みから星兎が現れ、兵士たちは彼を置いて逃げた。ルルメは鼻を鳴らし、籠へ飛びかかる。アッシュは尻もちをついたが、噛まれる前に気づいた。

星兎が狙ったのは彼ではない。蒸したばかりの蕪だった。

「腹が減ってるだけじゃないか」

温室の餌台には、宝石のような砂糖菓子が山積みだった。祝宴の余り物だ。しかし兎の前歯は根元で欠け、硬い菓子には噛み跡すらない。

アッシュは熱い蕪を二つに割り、息を吹きかけて冷ました。兵士が遠くから「手ごと食われるぞ」と叫ぶ。

「俺の手より、こっちのほうがうまいよ」

掌に載せると、ルルメは警戒しながら鼻を近づけた。柔らかな蕪を一口。次の瞬間には耳を震わせ、夢中で食べ始める。

アッシュは厨房から薄切りの蒸し根菜を追加で持ってきた。ついでに欠けた歯の周りへ詰まっていた砂糖屑を、濡れ布でそっと拭う。ルルメは嫌がるどころか、口元を自分から預けた。

温室管理官は「私が餌を工夫させた」と言い張ったが、星兎は彼が近づくと背を向け、アッシュの前でころんと転がった。星を散らした腹が丸見えになる。

腹毛に浮かんだ小さな星座が、アッシュの腕へ同じ形で移った。国王は笑い、芋むき係を星兎の食事番へ昇格させる。

厨房では、星兎に高価な菓子を食べさせた者ほど褒められる決まりになっていた。アッシュはその表を破り、歯の状態と食べられる柔らかさを記した献立札へ替える。読み書きの苦手な彼が絵で描いた蕪の印を、ルルメは毎朝、鼻先で楽しそうに選んだ。

ルルメは満腹になると、長い耳をアッシュの膝へ垂らした。耳の毛は蒸籠の湯気よりやさしく温かく、丸い頭は蕪籠いっぱい分ほど、幸福に重かった。