暗転の贈り物

稽古中の劇場が十秒だけ暗転し、明かりが戻ると舞台中央に赤い小包があった。正面客席には三十人、左右の袖には係員が立ち、奈落へ下りる扉も施錠されていた。箱には、主演俳優から盗まれた初演台本が収められていた。

疑われたのは照明技師の黒瀬、舞台監督の鷲尾、代役俳優の柏木。黒瀬は調光卓、鷲尾は上手袖、柏木は客席最前列にいた。三人とも台本を欲しがっていた。黒瀬は初演時の不正を隠したく、鷲尾は演出権を争い、柏木は主演交代を狙っている。暗転前、舞台は空であることを全員が確認しており、箱を投げ込めば硬い床へ落ちる音が客席中に響くはずだった。

演出助手の斑目が挙げた手掛かりは三つだった。小包のあった場所だけ、舞台床の粉塵が正方形に消えている。箱の底には黒鉛の粉が薄く付着している。そして舞台機構の操作記録には、暗転中、三番迫りが一往復した履歴が残っていた。

黒瀬は停電の原因を認めたが、卓から離れていない。柏木は暗闇でも客席の両隣に腕をつかまれていた。鷲尾は、三番迫りの記録は停電時の誤作動だと語った。稽古前、迫りの上面は舞台床と同じ板で覆われ、客席から区別できない。だが記録された往復時間は、安全装置が自動停止する十秒と正確に一致していた。

斑目が床を踏むと、正方形の板が静かに沈んだ。奈落にいた共犯者は不要だ。鷲尾は稽古前に箱を迫りへ置き、床面より一段下げて隠しておけばよかった。

「暗転中に三番迫りを上げ、箱を舞台面へ出し、すぐ機構だけ戻したのです。粉塵のない正方形は迫り板が一度沈んだ輪郭、黒鉛は昇降レールの潤滑粉、操作履歴は十秒の往復を示す。鷲尾さんは袖から卓を遠隔操作できた。箱は暗闇に運び込まれたのではなく、暗くなる前から舞台の真下に待っていた。照明は仕掛けではなく、観客に床を見せないための幕でした。黒瀬の暗転は予定表にあった通常の演出で、あなたはそこへ一度の昇降を重ねただけ。箱が現れた瞬間を三十人が見ていないことこそ、舞台監督にとって最良の観客証言になったのです」