曲げない二本の板
森の伐採場で大木が倒れ、木こりの脛を潰した。
脚は不自然な角度で止まり、少し触れるだけで男が叫ぶ。仲間は「真っすぐに戻せ」と両端を引こうとした。
前世で山岳救助隊の講習を受けたグンナは、斧を投げ捨てて間へ入った。
「戻さない。この形のまま運ぶ」
「曲がったままでは荷車に乗らん!」
グンナは細い板を二枚選び、外套を裂いて厚く巻いた。脚の左右へ当て、傷んだ場所を挟むように布で固定する。結び目は脚へ食い込ませず、板の外側へ置いた。
最初の揺れで、男は歯を食いしばった。
二度目の揺れでは、声を上げなかった。
荷車が岩を越えても、曲がった脚は一寸も動かない。普段なら一里ごとに止まる森道を、今日は六里先の治療院まで一度も休まず進めた。
治療師は布を切り、板を見て目を細めた。
「誰が真っすぐにしなかった?」
親方がグンナを指す。叱られると思った仲間たちの前で、治療師は深く頭を下げた。
「骨の端が皮膚を破らずに済んだ。運ぶ途中で動かしていたら、出血まで加わっていた」
治療後、男は足指を五本とも動かした。治療師が見積もった療養は四十日。昨年、同じ骨折を縄だけで運んだ木こりは百日休み、今も片足を引きずっている。
男を運んだ荷車は、いつもの搬送より一刻半早く治療院へ着いた。止まる回数が減ったため、馬も替えていない。板二枚と外套の端切れにかかった費用は銅貨三枚。骨が皮膚を破れば必要になる回復魔石は金貨六十枚だった。療養中の給金まで含めると、一本の脚だけで組合の冬予算が消えるところだった。親方は初めて、端材を薪ではなく救護具として数え直した。
治療院へ入る前、男はグンナへ「切らずに済んだ脚で、春にはまた森へ入る」と約束した。その声を聞いた若い木こりたちは、板の結び方を自分から練習し始めた。
森林組合長は、伐採場に置く板を「邪魔な端材」と呼んで燃やしていた。その日の夕方、端材百組へ白い印を押す。
『救護用・二枚一組』
さらにグンナへ組合の銀章を渡した。
「明日から斧は置け。全伐採班の搬送を、お前の板で変えろ」