月曜日だけの出向

月曜の朝、灰色の入館証が机に置かれていた社員は、所属部署へ寄らず月曜出向室へ行く。場所は毎週変わり、入館証の裏にだけ印字される。私物を一つ持参し、十七時まで指示された仕事をする。火曜以降、仕事の内容を話してはいけない。

誰も月曜出向室を組織図で見たことはない。それでも各部署は、毎週ひとり欠ける前提で予定を組んでいた。

樫尾の机には、七週続けて灰色の証があった。営業企画の締切は火曜へずれ、同僚は「月曜の人」と呼ぶようになった。同居していた恋人の千帆も、日曜の夜になると翌日の予定を聞かなくなった。

出向室で与えられる仕事は、使われなかった月曜日の整理だった。無人の会議室に日付のない卓上カレンダーが積まれ、樫尾は一枚ずつ、予定されていた行動を書いて棚へ入れた。

〈一緒に不動産屋へ行く〉

〈父へ転職を報告する〉

〈千帆の誕生日を予約する〉

どれも月曜に先送りし、そのまま行われなかったことだった。

持参した私物は、作業終了時に黄色い秤へ載せる。予定一件につき一グラム軽くなって戻る。最初の週は腕時計、次は財布、イヤホン、社員証。目に見える変化はなかったが、手に取るたび中身が少し遠く感じられた。

七週目、樫尾は部屋の合鍵を持っていった。前夜、千帆は荷物をまとめていた。

「月曜じゃない日に話して」

そう言われても、樫尾には何を話すべきか分からなかった。今度の月曜に考える、と答えた。千帆は合鍵を一本残し、出ていった。

その日の出向室には、予定票が一枚だけあった。

〈帰る〉

樫尾は自分の字で、実行されなかった理由を書いた。

〈仕事が終わらなかった〉

秤に鍵を置くと、表示はマイナス一グラムになった。規則では、負の重量が出た私物を持ち帰ってはいけない。彼は鍵を置いたまま退室した。

火曜、灰色の入館証は消えていた。所属部署へ戻ると、同僚は樫尾の席を新しい複合機の置き場にしていた。上司は「長期出向から戻るなら申請が必要だ」と言い、申請先を知らなかった。

夜、千帆のいない部屋へ帰ると、鍵穴が月曜日の形に塞がっていた。細長い紙片が差し込まれている。

引き抜くと、出向室へ置いた鍵が、薄い金属のカレンダーになっていた。すべての曜日が削られ、月曜だけが七列並んでいる。

最後の月曜の枠には、小さな玄関が刻まれていた。扉の前に、樫尾より一グラム重い靴が一足、脱ぎそろえてあった。