村じゅうの借金を一冊へ

徴税倉庫の雑用係ロッカは、数字の読める農民だった。

領主館ではそれだけで生意気とされ、毎日、差し押さえ品を地下へ運ばされた。彼の収納は物ではなく、紙に記された財産しか扱えない。

【固有スキル《証書収納》:書面化された財産を、記載された権利・義務ごと一枠へ格納する】

硬貨そのものは入らない。土地証文なら入るが、取り出せば何も変わらない。徴税官グレモは「紙くず専用」と笑い、村人の借用証を次々に積み上げた。

今年は日照りだった。

それでも領主は税を三倍にし、払えない家には種籾を貸した。契約書には小さな文字で、返済が一日遅れれば土地と家族の労働権を譲るとある。

収穫祭の朝、武装した徴税隊が村へ来た。今日の日没で百二十七戸が領主の所有になる。

「雑用係、差し押さえ品を収納しろ」

グレモは子どもの寝台を指さした。

ロッカは動かず、机上の契約書を見た。領主はいつも言っていた。借金も利息も、すべて自分の立派な財産だと。

「では、領主様の財産を一括で倉庫へ移します。許可を」

「好きにしろ。紙一枚残すな」

領主本人の命令を、立会人と記録水晶が刻んだ。

ロッカは百二十七枚を一冊に束ね、表紙へ手を置く。収納対象は紙だけではない。そこに記載された返済請求権、利息、担保、労働義務。そのすべてが領主の財産として書面化されている。

一度だけ収納する。

机から契約書が消えた。

同時に村人の首筋に浮かんでいた債務印が一斉に砕ける。権利も義務も収納中は行使できない。しかも空き枠の解除条件は、正当な受取人の同意。債務者全員が同意しない限り、領主は二度と取り出せない。

グレモがロッカの胸ぐらを掴む。

「返せ!」

「受取人百二十七戸の署名をお願いします」

村人たちが静かに背筋を伸ばした。

領主は兵へ命じようとしたが、契約を守る神殿騎士が先に彼の腕を押さえる。記録水晶の職業欄が、紙の焼ける音を立てて更新された。

【職業が《徴税倉庫雑用係》から《権利収蔵公》へ書き換わりました】