校庭に埋めた夏
新校舎の工事が始まる前夜、私たちは校庭へ穴を掘った。
埋めるのは、タイムカプセルではない。
十年前、先輩たちが埋めた箱を掘り出すためだった。
校庭の隅にある桜から東へ十二歩。古い部誌に地図が挟まっていた。来年の工事で地面が掘り返されれば、箱は重機に潰される。
顧問へ相談すれば正式に探してくれたかもしれない。けれど部誌には、『大人に見つからないうちに、次の生徒へ渡す』と書いてあった。
文芸部の私たちは、その一文を守ることにした。
夜十一時、スコップを持ってフェンスを越えた。
桜から十二歩。土は思ったより硬い。
「場所、合ってる?」
「昔の歩幅かも」
「先輩の身長、知らないよ」
二人で何度も測り直し、三か所掘った。
汗と土で制服の代わりに着てきたジャージが汚れた。
四か所目で、スコップの先が金属へ当たった。
箱は錆びていた。
ふたを開けると、原稿用紙、写真、壊れたペン、未来の部員への手紙が入っていた。
『部室がなくなっても、部がなくなっても、誰か一人が物語を書いていれば続きです』
文芸部は、今年で廃部になる予定だった。私たち二人が卒業すれば部員がいない。
手紙を書いた先輩は、今の状況を知らない。それでも言葉は、十年を越えて私たちへ届いた。
親友が泣いた。
「続けられないのに」
「一人でもって書いてある」
「誰が?」
私は箱から原稿用紙を一枚取り出した。
「私」
春から進学先は別々になる。親友は就職し、私は町を出る。文芸部という名前は消える。
それでも書くことはできる。
箱へ、私たちの原稿と手紙を加えた。
同じ場所へ戻すのは危険なので、旧体育倉庫の床下へ移した。地図を書き直し、部誌の最後へ挟む。
翌朝、校庭には不自然に柔らかい土が四か所残った。
先生はモグラだと思ったらしい。
卒業式のあと、部誌を図書室へ寄贈した。
次に地図を見つける人がいるかは分からない。
でも、誰にも言えない計画の中で受け取った手紙が、私たちの部活を最後ではなく途中にしてくれた。