欠けた剣の評価者
鍛錬場では、剣が折れるたびユリアン・メッツが呼ばれた。
彼は鍛冶科の隅で、刃の欠けを撫で、柄の巻きを直し、持ち主の癖に合わせて重心をずらす。華やかな新剣を打たないため、能力測定は【錬成出力:6】だった。
「修理屋が学院生を名乗るなよ」
剣術科首席のレグナ・バイスは、ユリアンの前へ式典用の白銀剣を投げた。
「これを磨いておけ。俺が測定記録を塗り替える剣だ」
ユリアンは刃を見て眉を寄せた。美しいが、レグナの強い握りには芯が硬すぎる。
「柄を少し緩めたほうがいい」
「臆病者の調整などいらん」
測定が始まり、レグナは白銀剣へ火をまとわせた。観客が立ち上がる。彼が標的へ振り下ろした瞬間、澄んだ音とともに刀身へ亀裂が走った。折れた刃が観覧席へ飛ぶ。
ユリアンは作業槌を投げ、刃の軌道を逸らした。続けて残った剣を受け取り、柄紐をほどく。炉も魔法陣も使わない。芯へ薄い金具を差し、レグナの手首が逃げる幅を作った。
「もう一度振って」
レグナは屈辱に顔を赤くしながら従った。今度は火が刃全体へ均等に流れ、標的だけが静かに割れた。
武具庫の棚が震え、ユリアンの手を通った装備が次々と淡く光った。弓使いは、指を傷めなくなった弦の結び目を見つめる。槍使いは、暴発を防いだ石突きを撫でた。盾役の生徒は、重さが偏らないよう裏へ縫われた革帯に初めて気づいた。
誰もユリアンの名を知らなかった。壊れた品を修理箱へ入れれば、翌朝には使いやすくなっている。それを学院の設備だと思い込み、礼も報告も省いていた。
鍛冶長は白銀剣の断面を示した。
「出力が低いのではない。必要以上に魔力を込めず、持ち主が壊さない形へ整えていたのだ」
レグナは唇を歪める。
「なら、俺の剣が強かったのもこいつのおかげだと言うのか」
ユリアンは首を振った。
「振ったのは君だ。でも、道具を粗末にする人へ、次の剣を任せる気はない」
その淡々とした拒絶が、罵声より深くレグナへ刺さった。
新式測定炉が、学院の武具に残る修復履歴を呼び出した。折れずに済んだ槍、暴発しなかった杖、持ち主を守った盾。その中心に、ユリアンの指紋が浮かぶ。
【装備存続寄与:93%】
鍛冶長はレグナから白銀剣を取り上げ、ユリアンへ管理印を渡した。
【装備科・契約更新】
専属鍛冶師:ユリアン・メッツ
取扱研修生:レグナ・バイス