止まってよい鉱山

砂倉イオは鉱山都市の選鉱場で、石と同じように扱われていた。

革の制服は肩が白く粉を吹き、鉄靴の内側には血の染みが残っている。落盤警報が鳴れば夜中でも集合し、機械が詰まれば休日でも呼び戻された。退職届を出した後も、未読の緊急連絡は増えた。「第三篩が停止」「新人では無理」「十分で来い」。誰も足の傷については尋ねなかった。

山を越えた谷で、イオは無限収納の性質に気づいた。収納された鉱石は、種類ごと、純度ごとに自動で並ぶ。しかも登録した買い手が代金を入れれば、指定量だけ入口から出せる。

彼は捨てられた小鉱脈を借り、採掘鼠たちに採れた石を収納口へ落としてもらった。鼠には木の実、土地の持ち主には売上の一部。選別も計量も無限収納が済ませ、鍛冶屋たちは必要な鉱石を好きな時間に引き取った。

イオは朝、谷の鳥へ餌をやるだけだった。

ある日、壁の収支板に淡い文字が走る。

《自動取引成立:鉄鉱石十二袋、雲母三箱》

《生活維持額を達成。採掘を停止しても三十日間支障なし》

停止しても支障なし。その言葉を、イオは何度も読んだ。鉱山では、機械一台が止まることさえ罪だった。人間が止まる許可など、最初から用意されていなかった。

彼は採掘鼠の餌箱にも《本日分あり》と札を出した。鼠たちは働く量を自分で決め、腹が満ちれば巣へ帰る。人より先に、谷の獣がまともな勤務規則を持っていた。イオもそれに倣うことにした。昼前に鼠たちが帰ると、イオも戸を閉めた。鉱脈は逃げないし、明日でも石は石のままだ。

元監督の映像が板へ割り込む。

「第二坑道が詰まった。お前の選別眼が要る。日当は倍だ」

「足が治っていません」

「座って指示するだけでいい」

それが、以前は十二時間立たせた男の台詞だった。

「断ります。今日は採掘も取引も止めます」

「金が要らんのか」

「要る分は、もうあります」

イオは収支板を休止表示に変えた。古い鉄靴を脱ぎ、素足を小川へ浸す。冷たい水が傷跡を撫でるあいだ、谷のどこにも警報は鳴らなかった。