死刑囚はあくびをした
死刑囚が処刑台であくびをしたため、刑吏長ヴァスコはひどく機嫌を損ねた。
「恐怖で顎が震えたのか?」
「いや、順番待ちが長くてね」
罪人ロディクは、手枷をはめたまま目尻を拭った。罪状は王への不敬。三日前、酒場で「今の王は曾孫より物忘れがひどい」と言ったらしい。
密告した酒場主には褒賞金が出た。ところが記録係が調べると、同じ台詞で処刑された男が八十年前の刑録にも載っていた。名前も顔の特徴も、ロディクと一致している。
実際、ロディクはその王の曾祖父の戴冠式も見ていた。だが誰も信じなかった。見た目は二十代で、髭さえ薄い。
「そのときの処刑台は東向きだった。朝日が眩しくてね」
刑吏長だけが笑わなかった。古い台の基礎が、今も広場の東端に残っていることを知っていたからだ。
「百二十年前の処刑は、もっと手際がよかった」
観衆が笑った。
ヴァスコは顔を赤くし、刑吏に雷弩を構えさせた。罪人を一瞬で炭にする、公開処刑用の魔導兵器だ。
「その軽口ごと消せ!」
紫電の矢がロディクの胸へ突き刺さる。処刑台は閃光に包まれ、焦げた臭いが広場へ流れた。
笑い声が歓声へ変わる。
ところが煙の中から、また欠伸が聞こえた。
ロディクは同じ場所に立っていた。片方の手枷を頬へ寄せ、口を隠している。雷弩の矢は胸元で潰れ、足元へ落ちた。
「眠気覚ましには少し弱いな」
歓声が止まる。
雷弩の射手は銃床から手を離した。反動避けの手袋が焦げているのに、標的の囚人服は白いままだ。武器の威力を最も信じていた者から順に、顔色を失っていった。
ヴァスコは雷弩の照準器を覗き込み、故障表示がないことを何度も確かめた。次に王都防衛塔へ合図を送る。
「天雷砲を処刑台へ。最大出力だ!」
見物人が逃げ始めた。天雷砲は攻城戦で城門を消す兵器であり、本来、人一人へ向けるものではない。
空が青白く裂けた。
落雷というより、夜明けが一本の柱になって降ってきた。結界が悲鳴を上げ、処刑台の石板は粉末になる。爆風がおさまっても、土煙は腰の高さまで渦巻いた。
ヴァスコは勝ち誇ろうと口を開き――閉じた。
煙の中心で、ロディクはまだ口元を手枷で覆っていた。あくびを終える前と、寸分違わぬ姿勢だった。
「次はあるかい?」
ロディクが涙の浮いた目を向ける。
刑吏長は答えず、処刑台から一歩退いた。