毒竜に冷たい葉を
薬草園の中央で、紫の幼竜が涎を垂らしていた。
一滴落ちるたび土から煙が上がる。園丁たちは毒竜だと叫んで柵の外へ逃げ、衛兵は火矢を用意した。
見習い薬師のルーシャは、幼竜の顔を見つめた。
処方を覚えるのが遅い彼女は、その日のうちに見習い札を返せと言われていた。けれど患者の顔を長く見る癖だけは、どれほど叱られても直さなかった。
右の頬だけが丸く腫れている。口を閉じられず、前足で何度も顎をこすっていた。毒を吐こうとしているのではない。痛みで涎が止められないのだ。
「口の中を見せて」
もちろん返事はない。幼竜は唸り、紫の霧を鼻から漏らした。
ルーシャは葉脈を潰して冷気が出るまで月冷草を揉み、自分で端を噛んで毒がないことと、その冷たさを示した。残りを布へ包み、腫れた頬の前へ置く。幼竜はしばらく疑っていたが、やがて顎を葉の包みに載せた。
冷気が効いたのか、目が少し細くなる。
その隙に口元をのぞくと、抜けかけの乳牙が横を向き、新しい牙との間で歯茎へ刺さっていた。ルーシャは薬糸を輪にし、乳牙へ引っかける。
「一度だけ。すぐ終わる」
火矢を構えた衛兵たちが息を止める。
幼竜が身を引いた瞬間、ぽん、と乳牙が抜けた。紫の涎が途切れ、土の煙も消える。幼竜は驚いた顔で口を開閉し、それからルーシャの指を舐めた。溢れていた毒はもうなく、舌は果実のように温かかった。
園長が柵の外から叫ぶ。
「その牙は王立院へ納めろ! 希少な素材だ!」
すると幼竜は落ちた乳牙を前足で押さえ、ルーシャの薬袋へ自分で入れた。園長ではなく、治してくれた者への贈り物らしい。
次いでごろんと仰向けになり、淡い腹鱗をさらす。撫でろ、という命令だった。
ルーシャが手を置くと、紫の契約紋が手首へ咲いた。毒竜の腹は薬湯を入れた革袋のように柔らかく、規則正しく上下する温かな重みが、震えていた彼女の掌を静かに押し返していた。