氷坑から抜けた青い釘

北鉱山の冷却炉には、氷魔族クォルが埋め込まれていた。

胸に当てられた青い契約板が、坑道の熱を彼の体へ吸い込ませる。鉱主ボザックは板を指で叩き、採掘量が落ちるたび冷気を強めた。クォルの指先は、すでに何本も透き通っている。坑夫たちは彼を炉の精霊だと教えられ、壁の向こうで誰かが凍えているとは知らされていなかった。

坑道技師タリサが安全検査に入った日、ボザックは鉱山ごと契約板を売りつけた。

「板へ技師印を足せば、温度も命も思いのままだ」

タリサは板を外して机へ置いた。裏には三つの溝がある。所有者、出力、罰則。四つ目の空白へ彼女の印を刻めば、命令権が移る。

「印を打て」とクォルが低く言った。

「なぜ望む」

「今の主より、あなたのほうが死なせ方を選ぶと思った」

その答えを聞いたタリサは、刻印槌を振り上げた。

彼女が打ったのは空白ではない。三本の溝が交わる中央だった。

青い板にひびが走る。

ボザックが飛び込んできた。

「馬鹿め! 冷却が止まれば坑道が焼ける!」

タリサは砕けた板を炉へ投げ、非常弁を開いた。ため込まれていた地下水が管を走り、冷却炉を満たす。人ひとりを部品にしなくても、設備は動いたのだ。水路工事を惜しんだ鉱主が隠していただけだった。

クォルの胸から青い釘が抜け、石床へ落ちる。

「外へ出ろ。日暮れまでに南門を開けておく」

「鉱山は?」

タリサは彼の胸に残った傷へ薬布だけを貼った。雇用証も恩返しの誓約も求めない。

「私の仕事だ。君の仕事ではない」

クォルは白い息を吐き、十年ぶりに地上へ出た。

夕刻、古い支柱が水圧で折れ、坑夫たちのいる横坑が崩れ始めた。タリサが救助へ走ると、入口は一瞬で氷に覆われた。崩落した岩を、分厚い氷柱が支えている。

その前にクォルが立っていた。

「南門は開いていたはずだ」

「見た。雪原も見た。どこへでも行けると分かった」

彼は鉱主から奪った命令鞭を折り、代わりに自分の氷斧をタリサの前へ柄から差し出す。

「だから戻った。命令される冷却炉ではなく、あなたと同じ側で坑夫を守る技師として雇ってくれ」

砕けた青い釘が、溶けた雪と一緒に排水溝へ流れていった。