氷壁の青い鉱脈

フィーナの朝は、火を起こすところから始まる。

採掘ではない。林檎の砂糖煮を温めるためだ。

雪国の氷壁には青晶石の筋が走っている。氷蜘蛛たちは夜の冷え込みで巣糸を張り、その糸が触れた結晶だけを丁寧に抜き取る。朝になると、石は橇箱へ積まれ、犬型ゴーレムが町の交換所まで運ぶ。フィーナは蜘蛛に干し果物を置き、橇の車軸を月に一度見るだけでいい。

青晶石が少ない朝は、蜘蛛も早く巣へ戻る。フィーナは不足分を掘りに行かず、貯蔵庫の豆を煮た。収入を増やすために凍え直すくらいなら、砂糖を一匙減らすほうがいい。そう選べること自体が、彼女には豊かさだった。

以前は北方鉱業館の選別係だった。白い制服は一見きれいだが、手首の内側だけ血がにじんだ跡で薄桃色になっている。凍傷で指が動かなくても、石を落とせば罰金。休暇願の返事より先に、緊急増員の通知が届いた。

退職してからも通信鈴は鳴った。フィーナは音を消していたので、未読の赤印だけが雪だるまのように積もっている。

鍋から甘い香りが立ったころ、窓辺の青晶札が淡く瞬いた。

《青晶石九片を納品。薪・小麦・砂糖、六週間分を入金しました》

砂糖まで買える。それを確かめて、フィーナは笑った。

直後、通信鈴が勝手に音を取り戻した。元主任イノーラが特別回線を使ったらしい。

『吹雪で半数が欠勤よ。あなたの席を空けてあるわ。今日だけ戻りなさい』

「その席、ずっと寒かったので要りません」

『倍の手当を出す』

「指は倍になりません」

『若いのに怠け癖をつけたら終わりよ』

フィーナは鍋をゆっくりかき混ぜた。

「休めないほうが、もう終わっていたんです」

通信鈴を布で包み、戸外の郵便箱へ入れる。返送先には北方鉱業館と書いた。もう彼女の家で鳴るものではない。

氷蜘蛛が一匹、窓枠で脚を振った。今日の採掘は終わった合図だ。

フィーナは林檎煮を厚いパンにのせ、暖炉前の長椅子へ運んだ。雪は午後までやまないだろう。

それなら午後まで、毛布から出ないことにした。