海へ沈めた真珠の証書

海鳴りの聖女コーデリアは、船底の礼拝室に鎖でつながれていた。

首には大粒の黒真珠。船主の所有証書と共鳴し、嵐が来るたび命を削って波を鎮める。拒めば真珠が喉を締めるため、彼女は一度も海を嫌いだと言えなかった。

私掠船《青鴎》の船長ネイヴは、拿捕した商船で彼女を見つけた。

「高価な積荷だぞ」と商船長は縛られたまま笑った。「証書へ名を書けば、お前の船は二度と沈まない」

甲板の向こうでは、冬の嵐が迫っている。部下たちも黙ってネイヴを見た。聖女を従わせれば、生還できる。

ネイヴは証書を受け取り、黒真珠の印を確かめた。

「確かに便利だ」

コーデリアの肩が小さく震える。

船長は羽根ペンを海へ放り投げた。

次いで証書を二つに折り、火薬樽から抜いた導火縄を巻く。火をつけると、青い炎が所有者欄から聖女の名へ走った。

「馬鹿か! 嵐が来るぞ!」

「だから急いでる」

燃える紙を砲門から海へ投げ込む。

黒真珠に亀裂が入り、首輪の鎖が一本ずつ外れた。最後の輪が床へ落ちると、コーデリアは咳き込みながら顔を上げた。

「波を鎮めろ!」と商船長が叫ぶ。

「お前の声は、もう届かない」

ネイヴはコーデリアへ救命艇の鍵を投げた。

「西に島が見える。艇を使え。嵐の前なら着ける」

「あなたたちは」

「自分の船は自分で浮かせる」

彼女を乗せた艇が離れる。直後、嵐が《青鴎》をのみ込んだ。

ネイヴは帆を半分切り、船首を波へ向ける。聖女の奇跡なしで乗り切るには、すべての腕と運が要った。

そのとき、横波だけが不自然にほどけた。

島へ向かったはずの救命艇が、船尾へ戻っている。コーデリアが櫂を握り、海へ掌を向けていた。

「戻れとは命じていない!」ネイヴが怒鳴る。

「命じられたからではありません!」

彼女は自分の首から割れた黒真珠を外し、荒れる海へ投げ捨てた。

「海が嫌いでした。でも、あなたの船が沈むのはもっと嫌です。私が鎮めたい波を、私が選びます!」

艇が接舷する。コーデリアは差し伸べられた手を借りず、自分で縄梯子を上った。

甲板に立つと、ネイヴの腰から予備の短剣を抜き、鞘ごと彼へ差し出した。

「船員として雇ってください。給金と、下船する自由を条件に」

「祈りは業務に入らない」

「承知しました、船長」

黒真珠のない喉から出たその呼び名は、初めて彼女が選んだものだった。