海へ返した五枚目

漁港カランでは、魚を浜へ上げた瞬間に五分の一を税として取られた。

 売れる前である。嵐で傷んだ魚も、小さすぎて市場に出せない魚も、徴税人は五匹に一匹を選んだ。税倉で腐った魚の臭いが漂う一方、漁師の食卓からは汁の具が消えていた。

 港務官クラウスは就任すると、税倉の扉を開け放った。

「腐らせるために取るのは、税ではなく嫌がらせだ」

 彼は競り場に一枚の黒板を置いた。

 税は「売れた代金の二十分の一」。家で食べる分、売れ残り、嵐で傷んだ魚は数えない。競りの終了ごとに売値と税額を書き、集まった銅貨は防波板の修理だけに使う。

「売値をごまかす奴が出る」

 若い漁師が言った。

「買い手も同じ黒板に署名する。ごまかせば、相手の支払いまで合わなくなる」

「役人が消したら?」

「黒板は三枚。競り場、酒場、船主組合に同じ数字を書く」

 競りを見学した子どもでも、黒板の掛け算を確かめられた。魚の名を書けない漁師には、籠の印をそのまま描いた。

 初日の税は、古い五分の一より少なかった。だが漁師たちは、捨てられる魚がないと知って沖へ出た。競りに並ぶ籠が倍になり、十日目には税収も以前を超えた。

 クラウスは約束どおり、防波板の材木を買った。帳簿には材木一本の値まで書いた。

 大工を雇う予定だったが、朝になると船大工、網元、魚売りが浜に集まっていた。

「作業税なんて決めてないぞ」

「知ってるさ」

 老漁師が釘をくわえて笑う。

「俺が払った銅貨二枚が、この板の端っこだと分かる。だったら真っ直ぐ打ちたくなる」

 魚売りの女たちは昼鍋を作り、子どもは古い板から釘を抜いた。誰にも参加札は配られなかった。

 三日後、季節外れの荒波が来た。

 新しい防波板が波を砕く。その向こうから、帰りの遅れた一艘が姿を見せた。港中が綱を取り、船を岸へ引き寄せる。

 老漁師は無事に降りると、税箱から記念に残していた古い魚札を一枚取り出した。五匹目を奪う印だった。

 彼はそれを海へ投げた。

 代わりに競り場の黒板へ、濡れた手で書く。

『本日の税、銅貨十一枚。全額、帰ってくる船のため』

 直後、港の帰船鐘が高く鳴った。