濡れたランドセル

小学三年の環は、雨に濡れたランドセルが嫌いだった。

家へ着くと表面を拭かなければならず、教科書の角まで湿っている。玄関には母が用意した古いタオルがいつも置かれていた。

その日、環は同級生の伊吹と帰った。伊吹の傘は骨が一本折れ、雨が肩へ落ちている。

「うち、近いから」と環は傘を半分差し出した。

二人で入ると歩きにくい。ランドセル同士がぶつかり、傘の端から水が流れる。結局、二人ともいつもより濡れた。

環の家で、母は伊吹にもタオルを渡した。ランドセルを並べて拭く。環のは赤茶色、伊吹のは黒。濡れた革の匂いが玄関に満ちた。

「中、大丈夫かな」

伊吹の算数ノートは端が波打っていた。環はドライヤーを持ってきたが、母に熱を当てすぎると紙が傷むと止められた。

二人は新聞紙の上へノートを開き、一頁ずつ間に紙を挟んだ。扇風機の風で、掛け算のページがぱらぱらめくれる。

待つ間、母がココアを作った。湯気で眼鏡が曇り、伊吹が笑う。

夕方、雨が弱くなった。ノートは完全には平らに戻らなかったが、字は読める。

伊吹が帰ったあと、環は二つ使ったタオルを洗濯機へ入れた。赤と黒のランドセルがあった場所には、半月形の水跡が並んでいる。

翌朝、教室で伊吹が乾いたノートを見せた。頁の間には、環の家の新聞の小さな切れ端が一枚残っていた。

二人はそれを栞にした。インクとココアの匂いがほんの少しして、雨の日の帰り道が紙の間に挟まっていた。

雨の翌日、環のランドセルには革用のクリームが薄く塗られていた。母が拭いたらしい。学校で伊吹の黒いランドセルと並べると、二つとも少し艶が違う。帰り道は晴れていたが、二人は昨日と同じ狭い歩幅で歩いた。水たまりを飛び越えるたび、中のノートが揺れる。波打った算数の頁を開くと、掛け算の数字の間に、乾いた新聞のインクの匂いがまだ挟まっていた。

新聞の切れ端には天気予報が印刷されていた。明日は晴れ。二人は顔を見合わせ、少しだけ残念がる。濡れずに帰れる日にも、相合い傘の狭い歩幅を覚えていた。