火山都市最後の城門
火山都市ラゴンの城門が残り一枚になったとき、守備兵は全員退却した。
門前に残ったのは、老兵マーレク一人だった。彼は大盾を持たず、欠けた軍旗の柄を両手で支え、溶岩竜軍の進路を塞いでいる。
敵将ザヴォルは上空から笑った。
「名を聞いておこう。最後に焼けた兵として記録してやる」
「門番で十分だ」
ザヴォルの騎竜が口を開く。《城壁崩し》と呼ばれる直線炎が、堀も跳ね橋もまとめて蒸発させた。熱波は市内の鐘をひとりでに鳴らし、遠くで避難民が悲鳴を上げる。
敵軍は進軍の合図を待った。
だがザヴォルだけは手を上げたまま動かない。火の中に立つ軍旗の影が、倒れないことに気づいたからだ。
煙が城壁の外へ流れる。
マーレクは同じ姿勢で立っていた。両手で旗の柄を支え、片足を半歩前へ出したまま。軍服も旗布も焼けず、その背後の城門には煤一つ付いていない。
「古代防壁か」と副官が言った。
「違う」
ザヴォルの声は低かった。古代防壁なら周囲の魔力を吸う。だが炎を浴びる前より、老人の気配はむしろ重くなっている。攻撃を受けるたび、守りが積み上がっていた。
「ならば積み上がる前に消す。《火核開放》!」
騎竜の胸が割れ、青い核が露出する。二撃目の炎は細い槍となり、門前の一点へ全熱量を集中させた。地面が深くえぐれ、左右の城壁が自重で崩れ落ちる。
その粉塵の中にも、軍旗は立っていた。
マーレクは旗の柄を握ったまま、欠伸をかみ殺す。
「若い頃、不死の呪いを受けてな。死ねん代わりに、死にかけるたび硬くなる。お前たちの先祖には、ずいぶん鍛えてもらった」
敵兵の列から、武器を下ろす音が次々にした。城壁は崩れているのに、門の向こうから泣き声が一つも聞こえない。老人が立っている限り、あの都市では敗北という事実さえ中へ入れないのだ。
ザヴォルは恐怖を振り払うように、竜骨から削った長槍《噴界》を構えた。上空から落下し、老人の胸へ全体重を乗せる。
衝突音が都市を揺らした。
マーレクは一歩も動かず、竜骨槍《噴界》だけが白い破片になって砕けた。