灯りをつける家

朱宮真幌が歌い始めると、モデルハウスの窓が順番に光った。

新型スマートホームの発表会。軽快なピアノと指を鳴らす音に合わせ、照明、鍵、換気扇が自動で動く。五年前、同じ会社の実験住宅で真幌の母が一酸化炭素中毒死した。会社は暖房器具の誤使用と説明し、製品の欠陥を否定した。

母はテスト居住者だった。死ぬ前夜、真幌へ何度も無言電話をかけている。着信は十一回。留守電には、部屋の静けさしか残っていなかった。真幌はそれ以来、暗い部屋で眠れない。

イントロの合成音声が弾む。

「灯りをつけて」

Aメロで玄関、廊下、台所が黄色くなる。次に寝室だけが三回点滅した。演出表にはない。真幌が歌を止めずに端末を見ると、住宅の旧ログが復元されていた。

母が死んだ夜も、同じ順番で灯りを操作している。玄関、廊下、台所、寝室を三回。故障して外へ出られないとき、家の照明で近所へ異常を知らせようとしたのだ。

サビで来場者が手元のアプリを振る。

「灯りをつけて」

その瞬間、すべての窓が赤く光った。換気制御の記録がスクリーンへ流れる。排気ファンは作動していた。しかしソフト更新のたび、排気口と吸気口の指示が逆転していた。家は毒を外へ出さず、室内へ戻していた。

会社役員が電源を落とせと叫ぶ。だがモデルハウスは母のアカウントを管理者として認証し、操作を拒んだ。無言電話も無言ではなかった。スマートフォンの明るさセンサーが、点滅を記録していた。

短、短、長。窓。開かない。助けて。

最後の一音で、二階の一室だけが白く灯る。そこは発表会の制御サーバー室だった。真幌が扉を開けると、五年前の検証端末がまだ接続されている。会社は事故後も欠陥を知りながらログを隠し、新製品へ同じ制御を移していた。

母の合成された声が、スピーカーから小さく響いた。

「灯りをつけて」

家族の帰宅を迎える言葉ではない。外へ届かなかった母の救難信号を、今度こそ世界から見える明かりにしろという頼みだった。