灯りを売らない蝋燭屋
パルシェの蝋燭は、ほとんど利益が出なかった。
鉱山商会は採掘道具を買った者へ、彼女の白い蝋燭を添えていた。火は弱く、香りもない。売上寄与は8%とされ、鉱山主は会議で切り捨てた。
「採掘者が欲しいのは鶴嘴だ。蝋燭は街の安物に替えろ」
パルシェは芯を撚る手を止めた。白蝋には坑道の毒気へ反応する鉱粉が混ぜてある。空気が淀むと炎が細く倒れ、崩落前の石鳴りが近いと蝋が青白く曇る。採掘者たちは炎を見て、危険な道を避けていた。
鉱山主が選んだのは、甘い香りと大きな炎を売りにした品だった。坑道は明るくなった。だが香煙が空気の変化を隠し、採掘者は毒気に気づけなかった。採掘が止まり、宝石店の棚も、精錬炉も、運搬馬車も空いた。
鉱山主は現場監督へ責任を押しつけた。監督は煤けた白蝋の残りを机に置いた。
「私たちは道具で岩を割った。でも帰る道を決めたのは、この火です」
商会本部の《源流売上灯》が灯った。宝石、金属、装飾品の代金から光が遡り、採掘道具を通り越して、坑道で消費された白蝋へ集まる。危険を避けて持ち帰られた鉱石だけが商品になったことを、光は容赦なく示した。
「売っても儲からない消耗品だぞ!」
鉱山主が叫ぶと、灯は壁へ影文字を映した。
《蝋燭を売ったのではない。採掘を続けられる夜を売った》
坑道から戻った採掘者たちは、使い切った蝋燭の芯を会議卓へ置いた。煤の曲がり方には、避けた毒気や引き返した分岐が残っている。源流売上灯がそれを読み取るたび、失われずに済んだ命と鉱脈が地図へ浮かんだ。鉱山主の豪華な鶴嘴は、誰も帰れない坑道の入口で光るだけだった。
パルシェは新しい工房で芯を撚っていた。迎えに来た商会役員へ、彼女は条件を告げる。今後、蝋燭は添え物ではなく安全装備として扱うこと。役員はその場で鉱山主の徽章を外した。
坑道の扉には、彼女の白蝋印が安全標章として掲げられた。
採掘者たちは、白蝋の炎に救われて持ち帰った原石を工房前へ積んだ。宝石商も精錬師も、その山がなければ自分たちの商品は生まれないと認める。鉱山主が香り蝋燭の在庫を値下げしようとしても、現場監督は安全標章のない火を坑道へ入れないと拒んだ。パルシェは大きな炎を作った蝋職人を追い出さず、休憩所や街路で生かす方法を提案する。ただし坑道用の配合は彼女の許可なしに変えられない。鉱山主は採掘計画を決める席から外され、毎朝、白蝋が足りているかを数える倉庫係へ回された。
《真価確定:パルシェ 実売上寄与92%》
《売上順位:末席→首位/役職:蝋屑拾い→鉱山供給総責任者》