炎上を消した人
茉白は炎上案件を受けるたび、最初の投稿者を知りたがった。
「誰が広めたかより、どう鎮めるかでしょう」と言っても、URLと投稿時刻を表にする。私は会議中、机の下で匿名アカウントのフォロワー数を確認した。六百を超えたところで、スマートフォンを伏せた。
広報代理店で、私は火消しが得意だった。消費者の怒りは単純だ。早く謝り、誰か一人に寄り添い、話題が薄れるまで別の情報を流せばいい。茉白は原因分析ばかりで、判断が遅い。
過去三件でも、私が最初の謝罪文を書き、茉白が後から数字を並べた。クライアントは私を「炎上の予報士」と呼んだ。その呼び名を、彼女が羨んでいるのは知っていた。
化粧品ブランドの新作が「肌荒れを隠している」と告発された夜、私は二時間で対応案を作った。使用者への個別連絡、検査結果の公開、返品窓口の設置。翌朝の役員説明では、なぜか茉白が私の資料を投影した。
「この対応は私が提案します」
喉が詰まった。徹夜で救ったのは私だ。
「作成者を確認してください」
「確認しました。だから私の名前で出しました」
「横取りを認めるの?」
「この案を実行すれば、投稿者に連絡できますから」
茉白は表の最上段を拡大した。最初の告発は、公開前の商品写真を添えていた。画像の切り抜き元は、社内限定の素材庫。アクセス履歴には私の端末番号が残っている。
私は説明した。小さな不満を早めに表へ出せば、大炎上になる前に対処できる。クライアントへ危機感を持たせる訓練でもある。実際、私の案で収束するはずだった。
「前の三件も同じアカウント群です」
「偶然よ」
「予約投稿の画面を見せてください」
スマートフォンは渡さなかった。私を陥れるために、茉白が投稿した可能性だってある。彼女は被害者のふりがうまい。
役員は案件を止め、端末の保全を命じた。私は退室しながら匿名アカウントを削除した。これで彼女の推測は証明できない。
エレベーターの扉が閉じた瞬間、私のポケットから、削除したはずの次の告発通知が鳴った。