焦げついた不死を剥がせ
王城厨房の鍋磨きザルメクは、焦げを残すことを許されなかった。
不死王が宴を終えるたび、百の鍋には黒い脂が焼きつく。料理長は落ちなければ鍋ごと捨てたが、ザルメクは灰と砂で何時間でも磨いた。
彼の技能は鍋底専用だと笑われていた。
【焦げ落とし:熱によって固着した黒い汚れを、下地を傷つけず剥離する。】
反乱軍が王城へ踏み込んだ夜、不死王は玉座の間を炎で閉ざした。
勇者の剣は王の胸を貫いた。聖女の光は心臓を焼いた。それでも黒焦げの肉が殻となり、その内側から新しい王が何度も立ち上がる。
「我は灰から生まれ直す。炎ある限り、死はない」
勇者たちは倒れ、炎が廊下へ広がった。避難する料理人の最後尾で、ザルメクは王の肌を見つめた。
再生のたび、黒い層が厚くなる。厨房へ戻された宴の皿にも同じ煤がついていた。王が命を奪うほど、焦げは増えていたのだ。
あれは鎧ではない。火に焼かれ、魂へ固着した“不死の焦げ”だ。
ザルメクは厨房へ戻り、愛用の鉄べらをつかんだ。料理長が止める声を背に、炎の中へ踏み込む。
不死王は笑って腕を広げた。
「鍋磨きが、王を洗うか」
「ええ。ずいぶん長く放置されたようなので」
鉄べらを胸へ当てる。
技能が発動した瞬間、王を覆う黒い皮膜に亀裂が走った。ザルメクは鍋底をこそげるのと同じ角度で、下から上へ一気に剥がす。
黒い層が、王の絶叫とともにめくれた。
床へ落ちた焦げの一片一片には、王が焼き殺した者たちの顔が浮かんでいた。奪った命を燃料にし、その燃えかすを魂へ貼りつける。それが不死の正体だった。
下地を傷つけずに焦げだけを取られた王は、初めて老いた素顔をさらした。再生の炎が消え、勇者の剣が残した傷から静かに崩れ落ちる。
玉座の間の業火も、燃料を失って消えた。
ザルメクは鉄べらについた黒い欠片を灰缶へ落とし、蓋をした。反乱軍の将が、その灰缶を国宝でも扱うように受け取る。
腰の厨房札が熱を帯び、煤けた職名だけがきれいに剥がれた。
【職業「王城鍋磨き」が上位職「劫火剥離師」へ書き換えられました】