焼きそば二つ、箸は三膳

【八月十二日 商店街納涼祭】

焼きそば 二つ

割り箸 三膳

合計 一二〇〇円

里緒は引っ越しの荷ほどき中、そのレシートを古い手帳から見つけた。油染みは茶色く広がり、店名はもう読めない。

高校二年の夏、里緒と紀香は二人で祭りへ行った。いつも真ん中にいた史帆は、父親の事情で突然転校し、誰にも住所を告げず町を離れていた。三人のグループチャットには、〈退会しました〉の表示だけが残った。

屋台のおじさんは、二人しかいないのに割り箸を三膳入れた。

「一本多いです」

里緒が返そうとすると、紀香がその手を止めた。

「いい。三人分だから」

「焼きそばは二つだよ」

「分ければ三つになる」

二人は境内の隅に座り、空の紙皿を一枚もらって、焼きそばを三等分した。史帆の皿だけ、湯気が消えていく。

里緒は腹が立った。いない人の分を用意するくらいなら、電話をかければいい。けれど番号は使われていなかった。心配していると伝える方法さえ、史帆は残してくれなかった。

紀香が三膳目の箸を紙皿に置いた。

「戻ってきたとき、席がなかったら困るでしょ」

「戻ってこないかもしれない」

「それでも、空けておくのは私たちが決めていい」

花火が始まる直前、紀香は三つの皿を写真に撮り、退会したアカウントしかないチャットへ送った。届くはずのない写真だった。

それから七年後、史帆から突然連絡が来た。共通の知人をたどって二人を探したらしい。返事ができなかった事情も、当時の家のことも、会って少しずつ聞いた。三人は昔のようには戻らなかった。連絡の速さも、暮らす町も違う。それでも関係に名前をつけ直すことはできた。

今夜は、離婚した紀香の新しい部屋で荷ほどきをする。史帆も仕事を終えてから来るという。

里緒は古いレシートを冷蔵庫に磁石で留めた。思い出を飾るためではない。二人分の焼きそばを三人で分けた、不格好な始まりを忘れないためだ。

インターホンが鳴った。

里緒は台所の引き出しから割り箸を取り出す。今度は数え間違いではなく、三膳。

空席を守る夜は終わった。これからは、違う時間を生きてきた三人で、新しい食卓を囲めばいい。