煙の向こうの牙
狩団長バルクスは、料理人クレフを森の入口で追放した。
「獲物も仕留められん男に分け前はない」
その夜、〈黒角猟団〉はいつも通り野営した。肉を炙り、酒を開け、焚き火を大きくした。最初の失敗は、肉が焦げたことではない。
森の奥から、灰牙狼が三十頭も現れた。
「なぜだ。こいつらは火を嫌うはずだぞ!」
狼たちは火ではなく、脂の匂いを追ってきた。
これまでクレフは、肉を焼く前に針葉草を火へ落としていた。煙に香りをつけるためだと誰もが思っていたが、針葉草は灰牙狼の鼻にだけ腐臭として届く。さらに脂を受ける石皿を地面へ埋め、匂いが風に乗らないようにしていた。
料理をしていただけではない。毎晩、獣から野営地を隠していたのだ。
バルクスたちは荷を捨て、木へ逃げ上がった。下では狼が食料袋を裂いている。朝まで降りられない。
酒樽も予備の弓弦も、狼に踏み荒らされた。バルクスは火球で追い払おうとしたが、燃えた脂の匂いがさらに遠くの群れを呼んだ。強い攻撃ほど状況を悪くする夜に、彼らは初めて、クレフが一度も狼を戦わせなかったことの価値を知った。
一方クレフは、森の外れの開拓村で初めての夕食を作っていた。村は灰牙狼を恐れ、日が沈む前に火を消すのが決まりだった。
クレフが針葉草を焚き、鹿肉を焼いても、狼の遠吠えは近づかない。子どもたちは半年ぶりに屋外の卓を囲んだ。
村長は焦げ目のついた肉を噛みしめ、震える声で言った。
「夜に温かい飯を食えるだけで、村が生き返ったようだ」
翌朝、村の共同厨房には〈防獣料理番クレフ〉の札が掛かった。畑仕事しかできなかった若者二人が、煙の扱いを教わりに来た。
そこへ、枝傷だらけのバルクスが現れた。
「針葉草の使い方だけ教えろ。いや、戻るなら分け前を少し増やす」
クレフは村の子どもへ、焼きたての肉を切り分けた。
「教える仕事は、この村と契約しました」
「俺たちを見殺しにするのか!」
「昨夜を生き延びたなら、次はご自分で選べます」
クレフは新しい厨房札を指で整えた。
「黒角猟団との契約は、森の入口で解雇された時点で終了しています」