父のクリームソーダ

日曜日、初音は父の聡一と喫茶店へ入った。二人きりで会うのは、両親が離婚して以来、三年ぶりだった。

父はメニューを長く眺めてから、クリームソーダを頼んだ。

「コーヒーじゃないの」

「今日はこっち」

運ばれてきた背の高いグラスは、透き通った緑色だった。氷の上に丸いバニラアイスが浮き、赤いさくらんぼが傾いている。父はストローの紙袋を蛇腹に縮めた。昔からの癖だった。

初音はカフェオレを混ぜながら、大学のこと、母のこと、父の新しい家族のことをどの順番で話すか考えた。どれも口にすると角が立ちそうで、スプーンだけがカップに当たった。

「小さい頃、これを頼んで泣いたの、覚えてるか」

父がアイスを指した。

「溶けるのが嫌だって。食べても減るし、放っておいても消えるって」

「面倒な子」

「今もな」

初音が睨むと、父は昔のように眉を下げた。グラスの中でアイスが溶け、白い筋が緑へゆっくり沈んでいく。

父は新しい家庭の話をしなかった。初音も母の愚痴を言わなかった。代わりに、駅前のパン屋がなくなったことや、飼っていた金魚が意外に長生きしたことを話した。

沈黙が来ても、今度は急いで埋めなかった。

「一口飲むか」

父がグラスを押してきた。初音は父の使ったストローを避け、スプーンですくった。炭酸の抜けかけた甘い水に、バニラが混じっている。

店を出る頃には、グラスの中は薄い乳白色になっていた。父は駅の改札前で「また」と言った。初音も「また」と返したが、日付は決めなかった。

それでよかった。消えてしまうものばかりではないと、舌に残る安いメロンの香りが教えていた。

帰りの電車で、初音は父からの短いメッセージを受け取った。〈さくらんぼ、食べ忘れた〉。グラスの縁に残っていた赤い実を思い出す。初音は〈次に食べれば〉と返した。送信した文字は素っ気なかったが、「次」という一字だけが、泡のように明るく見えた。