王冠を運んだ木箱

王立博物館の閉館後、修復士の玉城花蓮は、古王の黄金冠を盗んだとして拘束された。

展示ケースには精巧な複製品。花蓮の修復室からは、王冠を包んでいた絹布が出た。

「鍵を扱えたのは彼女だけです」

副館長の槇島巌は、評議員たちへ断言した。

「貧しい契約職員が、一生遊べる値段の品を前にして耐えられなかったのでしょう。私は昨夜、展示室へ一歩も入っていません」

槇島は盗難届へ署名し、花蓮の即時解雇を求めた。

花蓮は複製品を見て言った。

「王冠には、修復用の微小標識を入れてあります」

「館の備品を勝手に加工したのか!」

「盗難対策として、副館長が承認した処置です」

標識は砂粒ほどで、館内の搬出口を通ると警報を出す。ただし槇島は、展示品の貸し出し作業が煩わしいと、昨夜だけ警報を切っていた。

「停止は設備点検のためだ。王冠は館外へ出ていない」

そう言い切った瞬間、搬出業者から連絡が入った。槇島が今朝、外国の収集家へ送るため封印した木箱が、国境検査で発光したという。

箱は会議室へ戻されていた。槇島の印章が三か所に押され、内容欄には〈複製王冠・教育展示用〉と彼自身の字で記されている。

「開けろ」

評議長の命で封を切ると、黄金冠が現れた。

微小標識が青く明滅している。しかも木箱の封印記録には、槇島の声が残っていた。

『本物と気づかれる前に国外へ出せ。修復士の部屋には布を置いた』

槇島は箱を自分で選び、自分で内容を偽り、自分の印で封じた。誰にも任せなければ裏切られないと思ったのだろう。

花蓮の手首から拘束具が外される。

評議長が衛兵隊長へ命じた。

修復室に置かれた絹布には、槇島が展示ケースを磨く際に使う特殊な香油が染みていた。花蓮は布を見た瞬間から気づいていたが、先に指摘すれば副館長が処分すると考え、木箱が戻るまで黙っていたのだ。評議員の一人が、契約職員だった彼女へ正式な主任章を差し出した。

「槇島巌を、国宝窃盗および虚偽告発の現行犯として逮捕せよ」