王子様、配管を直す

 遊園地の王子役が熱を出し、設備係の蜷川恒星に白羽の矢が立った。

「顔の輪郭が似てる。三十分だけ衣装を着て、手を振ってくれ」と支配人。

「僕は配管担当です」

「王子も水くらい流す」

「国政を排水みたいに言わないでください」

 恒星は金髪のかつらと青い礼服を着せられ、城前のバルコニーへ立った。指示は一つ。

「絶対に会話するな」

 ところが、最前列の少女が叫んだ。

「王子様! 王国の噴水が止まっています!」

 実際、広場の噴水は朝から故障中だった。恒星は反射的に答えた。

「主配管の圧が落ちている。南側のバルブを閉め、ポンプを再起動する!」

 観客がどよめいた。

「王子様が自ら国難へ!」

「違う、設備の話です」

「民の生活設備を案じておられる!」

 少女が続けた。

「お城のお手洗いも一つ流れません!」

「二階西端なら、紙の使いすぎだ。詰まり除去棒を呼べ!」

「具体的な勅令!」

 今度は父親が声を上げた。

「王子、王国の未来は明るいですか」

「非常灯は先週すべて交換した!」

「未来を照らすお言葉!」

 恒星が何を言っても、王子らしい名言に変換された。

「雨漏りは放置するな!」

「小さな問題を見逃すな!」

「異音がしたら電源を切れ!」

「危険な権力を止めよ!」

「定期点検が国を守る!」

「おお!」

 支配人は舞台袖で頭を抱えていたが、観客は拍手喝采。噴水が止まったままなのを見た恒星は、ついにバルコニーを降りた。

「王子様、どちらへ?」

「国難を直しに」

 礼服のまま機械室へ入り、工具箱を開く。少女を含む観客がぞろぞろついてきた。恒星が詰まったフィルターを外し、ポンプを再起動すると、噴水は空高く上がった。

「王子様が水を呼んだ!」

「呼んだのは電源です」

 本物の王子役が薬を飲んで戻ってきたとき、城前には『配管王子』との記念撮影を待つ長蛇の列ができていた。

「僕の役、増えてません?」と本物。

「設備係を増やしてください」と恒星。

 翌週から、城の裏側を巡る設備点検ツアーが始まり、王子役より先に予約が埋まった。

 本日の王子は、設備課だった。