瓶の日の朝
千景の誕生日会は、二十三時十二分に終わった。
会といっても、同じマンションの友人が二人来て、宅配のピザを食べ、果物の缶詰をのせた小さなケーキを切っただけだ。三人とも、来年の話をしなかった。医師の見立てでは、来年まで残っていないからではなく、口にすると今夜が特別になりすぎるからだった。
友人たちが帰ると、流しの横に空き瓶が五本残った。炭酸水が三本、ジンジャーエールが一本、千景が一口だけ飲んだ葡萄ジュースが一本。
翌朝は資源ごみの日だった。
「明日、私が出すよ」
帰り際、友人は言った。
「朝早いし」
「玄関に置いといて」
千景はうなずいたが、午前五時半に目が覚めた。薬のせいで眠りは細切れだった。カーテンの外はまだ青く、廊下にも人の気配がない。
紙皿は重ね、ピザの箱は畳んである。友人たちが帰る前にほとんど片づけてくれたのに、瓶だけは水気を切る必要があるからと残された。千景は袖を肘までまくり、流しの栓を確かめた。
瓶を一本ずつ水ですすぐ。葡萄ジュースの底に紫色が残り、二度振ってやっと透明になった。金属の蓋を外し、ラベルの端を爪で起こす。冷えたガラスが指の骨に響く。
誕生日の後片づけを、自分で終えたかった。理由はそれだけだった。
透明、茶色、その他。集積所の箱は三つに分かれている。千景は瓶を布袋へ入れ、エレベーターで一階へ降りた。鏡に映った顔は、昨夜友人が塗った薄い口紅のままだった。
外気は湿っている。管理人の佐伯がほうきを持って、落ち葉を端へ寄せていた。
「今日は早いね」
「瓶の日なので」
「誕生日の翌朝まで働かなくていいのに」
「瓶は誕生日を知らないですから」
佐伯は笑い、透明瓶の箱を足で少し近づけた。
千景は一本ずつ入れた。炭酸水の瓶は軽い音を立て、葡萄ジュースの瓶だけ低く鳴った。最後の一本から、剥がし忘れた小さな値札が見つかった。千景は親指でこすり、紙片をポケットへ入れる。
空になった布袋を畳む。箱の中で五本が朝の光を受けている。
千景は黄色い回収ネットを箱の上まで引いた。