生徒会長のコーラ
買い食い禁止週間の初日、生徒会長が自販機でコーラを買っていた。
校門から二百メートル以内は飲食禁止。昨日の全校集会で、会長自身がそう説明したばかりだった。
「見ました」
私が言うと、会長は缶を背中へ隠した。
「これは買い食いではない」
「飲み物ですけど」
「調査」
「何の」
「炭酸飲料が校風へ与える影響」
真顔で言うので、笑ってしまった。
会長はクラスでは完璧だった。提出物、成績、挨拶。先生より校則に詳しい。
「黙っててほしい?」
「君も買えば共犯」
彼は自販機へ百円玉を入れた。
「脅迫ですか」
「制度設計」
私は同じコーラを買った。
缶を開けると、会長のものだけ勢いよく泡が吹き出した。振ってあったらしい。制服の袖に茶色い点が散った。
「校風への影響、大きいですね」
会長は黙ってハンカチで拭いた。
聞けば、今週は推薦の面接、文化祭の会議、校則改定の意見書が重なっている。放課後までずっと「正しい会長」でいるのに疲れ、自販機の前だけ休むことにしたという。
「校則、守る側が破っていいんですか」
「よくない」
「じゃあ反省文」
「君もだ」
「共犯にされた」
二人で缶を持ち、校門から二百一メートルの白線を探した。実際には印などない。歩道のひびを境界と決め、その外側へ一歩出る。
「ここなら合法」
会長はようやく一口飲んだ。
「ただの道路ですけど」
「校則は学校の中だけで世界を作るからな」
その言葉は会長らしくなかった。
「外では会長じゃないんですか」
「外では、炭酸を吹きこぼす人」
私は笑った。
翌日の全校放送で、会長は買い食い禁止週間の目的を説明したあと、付け加えた。
「なお、水分補給まで一律に禁じる意図はありません。場所と安全を考え、各自で判断してください」
先生たちが少しざわついた。
放課後、自販機へ行くと、会長が先にいた。
「今日は振ってない」
差し出された缶を、念のため耳元で確認した。
「調査の続き?」
「休憩」
私たちは校門から二百一メートルの場所に並んだ。
会長の肩から力が抜けるまで、炭酸の泡を眺めていた。