異端児をかばう聖騎士試験
聖騎士選抜の最終試験で、メルキオは魔族の血を引くクレピアを標的役に選んだ。
礼拝堂がざわめく。候補生たちは聖女や貴族の子を選び、安全な防護結界の内側へ立たせていた。クレピアだけは「異端は守護の対象外」と、床の端へ追いやられていた。
「選び直せ」
司教試験官が命じる。
「この子も王国民です」
「角のある者を仲間と呼ぶ騎士はいらぬ」
司教は試験用の光矢ではなく、処刑用の聖槍を掲げた。昨冬の熱病で、クレピアは角を布で隠し、夜ごと貧民街へ薬を運んだ。礼拝堂の騎士たちが感染を恐れて門を閉ざした夜も、彼女だけは患者の手を離さなかった。メルキオは当時、病床からその姿を見ていた。だから守る相手を選べと言われた瞬間、迷う理由がなかった。
クレピアが身を縮めると、メルキオは剣を鞘へ納め、彼女の前で両膝を軽く曲げた。
ほかの候補生は選んだ貴族の子へ聖布と護符を何枚も巻いた。クレピアには配布係が護符を渡さなかった。メルキオは自分の白い外套を外して彼女の肩へかける。『これは防具じゃない。合格したら返してもらう約束だ』。少女の指が、初めて少し緩んだ。
第一撃《白罰》が走る。礼拝堂の長椅子が吹き飛び、白煙が天井画を隠した。司教は祈りの形をした笑みを浮かべたが、煙の中に残る小さな影を見て、指を止めた。
クレピアの角の影だった。
聖光に焼かれれば魔族の角は最初に崩れる。なのに床の影は、攻撃前と同じ輪郭を保っている。
煙が晴れる。メルキオは両膝を曲げた同じ姿勢で立ち、クレピアは彼の外套をつまんでいた。二人の周囲だけ長椅子が元の位置に残り、床の蝋燭さえ消えていない。
「邪法だ! 神の力をもって暴く!」
司教は聖槍と祭壇を接続し、礼拝堂すべての祈力を吸い上げた。《天門断罪》の光柱が落ちる。候補生たちは結界の外へ逃げたが、メルキオだけは振り返らない。
光と煙が引いたあとも、彼は同じ姿勢だった。
クレピアが初めて顔を上げる。司教はもう一度槍を掲げようとした。しかし、守る者を選別した祈りに耐えられなかったのは、異端の少女ではない。
聖槍は司教の手の中で砕けた。