痛みを半分ください

婚姻印を結んだ夫婦は、どちらかが受けた痛みを必ず半分ずつ感じる。

プルシナは治療院の床に膝をつき、ヘルム王子の左手へ自分の掌を重ねた。王子の腕には、黒い蔓のような病斑が走っている。触れなくても、焼けた鉄を骨へ押し当てられる痛みだと分かった。

「治るわけではない」と老医師は念を押した。「殿下の苦痛が半分になるだけです。あなたは健康な身体で、同じ苦痛を毎日受ける」

契約期間は六十日。北の避難路が開くまで、ヘルムが玉座に座り続けるための結婚だった。国王が病臥した今、王子が意識を失えば、難民を城門へ入れる命令は撤回される。

プルシナは王宮の薬草係で、彼とは三度しか話したことがない。

一度目は、薬棚を倒した彼女を叱らず手伝った。

二度目は、貴族用の解熱薬を下町へ回す署名を頼んだ。

三度目は昨日、「君を使うくらいなら門を閉じる」と断られた。

だから今、王子は寝台へ縛られている。痛みで印を拒まないよう、医師がしたことだった。

「外してくれ」ヘルムが歯を食いしばる。「君には、弟がいるだろう」

「門の外にいます」

避難民の列の中に、十二歳の弟がいる。プルシナだけ先に薬草師として城へ入れた。弟へ渡した通行札は、明日の朝には紙切れになる。

「六十日後、印は消える」と王子は言う。

医師は沈黙した。

印は消えても、一度覚えた痛みを身体が忘れないことがある。何もない日に焼けるような苦痛が戻る。指が震え、薬草を刻めなくなるかもしれない。

プルシナはそれも契約書で読んでいた。

弟と小さな薬店を開く夢があった。硝子瓶を並べ、看板に二人の名を書く。自分の手が使えなくなれば、その夢は弟一人のものになる。

けれど、門の外には誰かの弟や母や恋人が、何千人もいる。

「殿下は痛みに耐えて命令を出す。私は痛みに耐えて薬を作る。それで公平です」

「公平ではない」

「契約結婚なんて、最初から公平ではありません」

プルシナは笑い、婚姻印へ針を刺した。

二人の血が触れた瞬間、黒い痛みが腕を駆け上がった。

叫ばない代わりに噛みしめた唇から、薬草より苦い血の味がした。