白いリボンの注文票

美弥が結んだのは、白いリボンだった。

注文票には、銀色と書かれていた。

結婚十周年の贈り物。客は「最初の式で使った色だから」と銀を選び、花の種類より長くリボンを迷っていた。美弥は受取時刻ばかり気にして、材料箱の隣の段から白を取った。

完成写真を送ったあと、客から《リボンの色は変更できますか》と届いた。

店内には、花用の銀リボンが残り三十センチしかない。結び直せば茎を傷めるかもしれず、配達まで二十分だった。

美弥はいつも、こういう失敗を廃棄箱の底へ隠す。自腹で材料を買い、休憩中に作り直し、誰にも知られなければ「なかったこと」にする。失敗が見つからないことを、信用だと取り違えていた。

レジ下の財布へ手を伸ばしかけ、注文票を持って店長のところへ行った。

「私が白で作りました。銀は三十センチです。花を傷めず替えられるか、見てください」

声が最後だけ細くなった。

店長は花束を回し、茎元をほどいた。「ここからならいける。配達は五分遅れるって連絡して」

それだけだった。美弥は客へ、色を取り違えたことと到着見込みを伝えた。返事は《お願いします》だった。

白いリボンを外すと、結び目の跡が薄く残った。銀を通し直した花束は、最初より少しだけ形が崩れた。完璧な作り直しではない。それでも、注文票の色になった。

外した白いリボンを、美弥は廃棄箱へ押し込まなかった。短く切って、材料見本の台紙へ貼る。《白/銀 照明下で要確認》と書き添え、自分の名前も記した。

配達員が花束を持って出る。結果を見届けることはできない。

閉店まで客から連絡はなかった。喜んだのか、形の崩れに気づいたのか、それさえ分からない。美弥は受信画面を何度も更新しそうになったが、注文票へ《色変更済み・五分遅配》と記録し、端末を伏せた。反応を見張り続けることまで、対応には含まれていない。店の時計は、次の注文の時間を指していた。

美弥は空いた作業台を拭き、財布をレジ下から鞄へ戻した。今日の失敗を、自分だけに請求しないまま、次の注文票を表に返した。