白衣のポケット
看護実習の筆記試験で、石蕗慧生の白衣から薬剤一覧の紙が見つかった。
「実習生として失格だ」
倉持蒔人は誰より早く言った。彼は学年首席で、病院推薦の候補だった。
慧生は紙を見た。折り方も、書かれた略号も知らない。だが監督教員は、胸ポケットから出た以上、本人のものだと判断した。
試験後、実習指導室で事情聴取が始まった。倉持は、試験前に慧生が薬品庫付近をうろついていたと証言する。
「患者さんを預かる仕事です。誤魔化す人は推薦できません」
慧生は黙って学生証を出した。
「薬品庫の入退室記録を確認してください」
実習棟では、安全管理のため、学生証をかざさなければ薬品庫前の区画へ入れない。記録上、慧生は試験前の一時間、図書室にいた。入室していたのは倉持だけだった。
倉持は備品確認だと言い張った。
そこで教員が、廊下の安全カメラを再生する。試験開始十分前、倉持は白衣掛けの前へ立ち、慧生の白衣を手に取った。紙を胸ポケットへ入れたあと、袖の名札を確かめている。
映像だけでは終わらなかった。
慧生の白衣には、実習中の振り返り用として許可された小型音声メモ端末が入っていた。試験前に停止し忘れ、ポケットの中で録音を続けていた。
紙を差し込む音のあと、倉持の声がする。
『推薦、一枠しかないんだから仕方ない』
続いて、別の声。担当教員だった。
『見つける役は私がやる。あなたは証言だけして』
指導室にいた全員が、その教員を見た。
病院の教育責任者が緊急で呼ばれ、映像と録音を確認した。推薦選考は白紙に戻され、倉持と担当教員は調査終了まで実習停止。慧生の試験は無効ではなく、答案をそのまま採点すると決まった。
病院責任者は白衣の紙を証拠袋へ入れた。
「患者の安全に必要なのは、成績の高さより、記録を正しく残す姿勢です」
推薦候補欄から倉持の名が消え、慧生の名が単独で残る。
胸ポケットを閉じるスナップ音が鳴った瞬間、押し込まれた濡れ衣は、仕掛けた二人を実習室の外へ押し出した。