百の拍手を縫った服

 金色の舞台衣装には、百回拍手されるたび、着る者に向けられた約束が一つ消える呪いがある。

 歌姫カロナは、その服で最後の舞台に立った。

 劇場主が踊り子たちの給金を奪い、逆らった者を地下室へ閉じ込めている証拠を、今夜の歌に織り込んだ。歌い切れば客席の記録石がすべてを残す。だが劇場主は、彼女の衣装を呪いの服にすり替えていた。

 地下室には、足を傷めた十六歳の踊り子もいる。カロナが新人だったころ、靴擦れに布を巻いてくれた衣装係もいる。自分だけなら逃げられた。ミハルも荷馬車を用意していた。それでも舞台へ戻ったのは、喝采を浴びる自分の影で、声を奪われた人たちがいると知ったからだ。金糸の袖には拍手の数だけ小さな点が灯り、逃げる猶予を正確に減らしていった。照明の熱より、その小さな光のほうが肌を焼いた。

 最初の百拍で、支配人の「君の席はいつでも空けておく」が消えた。舞台袖の名札が剥がれ落ちる。

 二百拍で、妹の「来年も一緒に誕生日を祝おう」が消えた。胸元に隠した招待状の文字が薄くなる。

 客たちは何も知らず、歌の合間ごとに手を叩く。拍手は波のように大きくなった。

 恋人ミハルは最前列にいた。開演前、彼はカロナの左手に指輪をはめた。

「全部終わったら、この街を出よう。何があっても待ってる」

 その約束だけは、失いたくなかった。

 最後の節を歌わずに袖へ下がれば、拍手は三百に届かない。証拠も不完全なまま、閉じ込められた踊り子たちは明日も戻らない。

 カロナは客席を見た。ミハルは止めるように首を振った。それでも指輪の上に手を重ね、彼女の選択を待っている。

 歌姫は息を吸った。

 最後の節は、劇場主の名と地下室の鍵の場所だった。

 歌い終えた瞬間、客席が立ち上がる。三百回目の拍手が鳴った。

 指輪の内側に刻まれていた「待つ」という文字が、熱を持って消える。

 ミハルは立ち尽くし、なぜ自分がそこにいるのか分からない顔をした。

 カロナは震える唇で礼をし、約束のなくなった拍手を最後まで受け取った。