皿屋敷は八枚で閉店

江戸の小料理屋〈潮見〉では、毎朝、皿が一枚ずつ減っていた。

女将の糀谷伊勢は、奉公人を並べた。

「誰が割った」

板前は首を振る。

「井戸のお菊が持っていくんだ」

仲居も続く。

「昨夜、“一枚足りない”と声が」

下働きは板前を指した。

「親方が酔って数えたからです」

「俺は九枚まで数えられる」

「十枚は?」

「その先は霊の領分だ」

店の裏には古井戸があり、近所では皿屋敷の親類筋だという勝手な噂があった。

女将は井戸へ向かって叫んだ。

「皿を返しな!」

井戸の中から、

「一枚……」

と声がした。

全員が逃げた。

翌朝、また皿が減った。

板前が言う。

「お菊だ」

仲居は下働きを見る。

「あなた、夜中に井戸へ行ったでしょう」

「水を汲みに」

「皿も?」

「井戸で皿を洗う人がいる?」

女将は板前へ向く。

「新しい店へ持ち出してないだろうね」

「独立資金を皿で貯めません」

岡っ引きまで呼ばれた。

「皿の特徴は」

「藍の縁取り」

「値は」

「一枚二百文」

「幽霊にしては堅実な盗みだ」

「高い物から一枚ずつ?」

「在庫管理のできる霊だな」

仲居は皿へ墨で番号を振った。

「一番から九番まで」

板前が尋ねる。

「十番は?」

「十枚目がないから怪談なんでしょう」

岡っ引きが言う。

「最初から九枚しか買っていない可能性は」

女将は帳面を突き出した。

「十枚。勘定まで幽霊にする気かい」

その夜、全員で井戸を見張った。

丑三つ時、また声がした。

「一枚……一枚……」

板前は女将の背中を押す。

「店主として」

女将は仲居を押す。

「若い者から」

仲居は岡っ引きを見る。

「公務で」

岡っ引きは下働きを前へ出す。

「疑われてる者から」

「なすりつけ合いに身分制度を使わないで!」

下働きが井戸をのぞくと、底ではなく、隣家の塀の向こうから声がしていた。

隣の魚屋が夜中に干物を数えている。

「一枚、二枚……」

そして減った皿は、店の軒下から出てきた。野良犬が魚の匂いの残る皿を一枚ずつ運び、舐めていたのだ。

女将が板前をにらむ。

「洗いが甘い」

板前は犬を指す。

「こいつの舌が厳しい」

お菊の霊は無罪になったが、皿洗いは板前の仕事になった。