盾を上げられなかった帰り道

新人盾役のアグナは、岩巨人の拳を前に足を止めた。

挑発の合図を出すはずだった。だが巨人が腕を振り上げた瞬間、昔の落盤事故を思い出し、盾を上げられなかった。

拳は後衛へ向かった。剣士カイルドが割り込み、肩を折った。魔導士ミゼルの転移で全員逃げられたが、討伐は失敗。神官フーベルトの治癒でも、カイルドの腕は一週間動かせないという。

帰還馬車で、アグナは御者台の隅に座った。

三人は客室にいる。自分を外す相談をしているはずだ。初めて組んだ隊でも、恐怖で動けなくなった翌朝、盾だけ残して追い出された。

岩巨人の拳が落ちる直前、アグナの耳には崩落した坑道で父を呼ぶ自分の声が蘇った。頭では盾を上げろと分かっていたのに、腕は石のようだった。帰り道で三人が怪我の程度を話すたび、その一秒を何度もやり直した。

街へ着くと、アグナは盾を馬車の壁へ立てかけた。

「修理代は後で送ります。私の分の報酬も治療費に」

カイルドが痛みに顔をしかめるたび、アグナは自分の盾より重いものを胸に抱えた。

片腕を吊ったカイルドが客室から降り、無事な手で自分の剣をアグナの盾裏へ差し込んだ。

「一週間、持てない。預かれ」

ミゼルは転移札を四枚、盾の縁へ貼った。

「次に怖くなったら、逃げる場所を私が作る。だから合図だけして」

フーベルトはギルド前の長椅子へ治療鞄を置き、その横に三人分の荷物を並べた。中央だけ、アグナ一人が座れる幅で空いている。

「再診が終わるまで誰も帰らない。あなたも患者です」

「怪我をしたのはカイルドです」

「震えが止まっていない人も診る」

アグナは盾から手を離せなかった。

「また止まったら、今度こそ皆を殺すかもしれない」

カイルドは剣を返せと言わず、盾の前に立った。

「その時は俺が隣で止まる」

ミゼルは馬車の扉を閉め、馭者へ待機料を渡す。フーベルトは空いた席を軽く叩いた。

長椅子の下には、次の遠征用に四人分の靴まで揃えて置かれていた。

アグナが腰を下ろすと、盾の裏で剣と転移札が触れ合って鳴った。

守れなかった日の帰り道を、三人は彼女一人の追放路にしなかった。