砂巨人の種は井戸より深い

開拓村の井戸が枯れ、最後の水樽が空になった。

領都の水商人は、樽一つを家一軒分の値で売ると言った。払えないなら土地を明け渡せ、と。村人たちは荷車へ家財を積み始めていた。墓地の石まで運べないと知り、老人たちは先祖へ別れを告げている。ハルヴァの娘も、芽の出なかった鉢を抱えていた。

ハルヴァだけは荒野へ向かった。

必要なのは、砂巨人ガルガンが体内で守る《水脈樹の種》。彼の能力《土地願いドロップ》は、倒した地域ボスから、その土地を生かす限定品を一つ確定させる。

砂巨人は剣を通さない。ハルヴァは逃げずに足元を掘った。巨人が踏み込むたび地盤を崩し、片膝をついたところで胸の核へつるはしを振り下ろす。砂山が崩れ、その中心から青い種が一粒転がった。

村へ戻ると、水商人が立ち退き証書を広げていた。

「遅かったな。全員、もう印を――」

ハルヴァは証書の中央へ種を置いた。

「ここは畑じゃないぞ」と誰かが言う。

「だからいい。村の真ん中だ」

種へ、最後の椀に残っていた水を一滴落とす。

土が低く鳴った。青い根が石畳の隙間から走り出し、家々の下を通り、乾いた畑のさらに深くへ潜っていく。やがて根は地下百層の水脈へ届いた。

広場の中央から、透明な幹が一気に伸びる。

枝先に実った水球が割れ、柔らかな雨になった。井戸は底から満ち、用水路が歌い、ひび割れた畑が黒く湿る。子供たちは口を開けて雨を飲み、牛は泥へ鼻先を突っ込んだ。

水商人が樽を抱えて怒鳴る。

「水源使用料を払え! 地下水は領主のものだ!」

透明な幹に文字が浮かぶ。

――この樹の水は、根の上で暮らし、土を耕す者に等しく分かたれる。

商人が樽を差し出しても一滴も入らない。だが鍬を握った老女の桶には、縁まで澄んだ水が満ちた。

村人たちは荷車から家財を降ろし始めた。立ち退き証書は雨で滲み、ただの紙屑になる。

ハルヴァは濡れた帽子を脱ぎ、村で最初の苗を植えた。

その苗へ水球が一つ落ちた瞬間、種の正体が空に表示される。

【領域ボス限定SSR《水脈樹の種》――永久共同水源、世界初定着】