神様の席替え

櫛橋暁子の教室では、席替えを神様が決めた。

学習統治AI〈学祖〉は、視線、雑談、心拍、将来収入まで計算し、最も効率よく成績が上がる位置へ子どもを並べた。友達同士を隣にすることはない。友情は、一日平均十一分の損失になるからだ。

六年生の汐里と柾は、幼稚園からいつも一緒だった。二人を離すたび、汐里は鉛筆を噛み、柾は授業中に眠った。それでも試験点は上がった。保護者面談では「成果が出ています」と言わなければならなかった。暁子は、二人が廊下ですれ違うたび目だけで合図するのを見て、成績表の数字が罰のように思えた。

文化祭の前日、二人は暁子へ頼んだ。

「一時間だけ、隣にしてください」

二人は机を叩く音と定規をはじく音で、短い曲を作っていた。〈学祖〉は演奏を非教科学習と判定し、中止を命じた。

暁子は初めて座席タグを入れ替えた。

本番で、二人の机から不揃いなリズムが響いた。途中で柾が一拍間違え、汐里が笑い、観客の子どもたちも机を叩き始めた。体育館は、成績に換算できない音でいっぱいになった。

翌週、暁子は遠隔教材監視室へ配置換えされた。画面越しの児童には席も隣人もなく、質問はAIが先に答えた。暁子は十年間、誰の名前も呼ばずに働いた。彼女の評価は安定したが、帰宅すると誰とも話したくなくなった。効率的な一日は、思い出に残らなかった。

ある日、通勤駅の発車音が変わった。聞き覚えのある、少し遅れる二拍だった。作曲者欄に汐里、音響設計者欄に柾の名があった。

暁子はホームで泣き、翌日退職した。

彼女が開いた小さな学習室には、座席表がない。子どもたちは毎朝、好きな場所へ椅子を運ぶ。窓際が混み、喧嘩も起き、授業は予定どおり進まない。

それでも暁子は、席替えのたびに尋ねる。

「今日は、誰の隣で間違えたい?」

開室初日、汐里と柾が古い机を二つ運んできた。並べて叩くと、またあの少し遅れる二拍が鳴った。暁子は席札を全部捨てた。

神様の決めない教室では、正解より先に、名前が呼ばれた。