空から落ちた隊長
竜騎士隊で、ユリサだけは槍を持たなかった。
鞍の下へ魔法陣を描き、騎手と竜の重さを空へ逃がす。それが彼女の役目だった。
隊長グレンゾは新型の軽量鞍が届くと、彼女を笑った。
「道具が進歩した今、浮かせるだけの支援魔術は不要だ。地上任務へでも行け」
追放状へ署名したのは、初飛行の前日だった。
翌朝、十二騎が城壁から一斉に飛び立った。
最初の旋回までは美しかった。だがグレンゾが急上昇を命じた瞬間、先頭竜の翼が片方だけ沈んだ。軽量鞍は軽くても、鎧を着た騎手と槍の重さは消えない。竜は姿勢を立て直せず、グレンゾごと訓練場の干し草へ落ちた。
後続も次々と高度を失う。
一騎は塔へ脚をぶつけ、別の一騎は着地で鞍帯を切った。竜たちは怯え、二度目の離陸を拒んだ。
閲兵に来ていた王子の前で、竜騎士隊は地上を歩いて格納庫へ戻った。新型鞍の製作者は「規定荷重内だ」と主張したが、その規定は直線飛行の数字でしかない。旋回時に外翼へかかる重さを計算した者は、一人もいなかった。グレンゾは干し草の山から担架で運ばれながら、初めて空を見上げた。
獣医が折れた翼骨を見て呟く。
「これまで急旋回できたのは、竜が強かったからではありません。ユリサ殿が旋回のたびに外側の荷重を半分にしていたんです」
そのころユリサは、山岳救助隊の初任務に出ていた。
崖下で動けなくなった木こりを担架へ乗せ、二人分の重さを雪風へ預ける。救助隊長ハスカは片手で担架を持ち上げ、笑った。
「この術なら、助ける人数を体力で選ばなくていい」
救われた木こりは、自分より先に道具箱まで引き上げられたことに驚いた。ユリサは「命と仕事道具のどちらかを捨てなくていい重さでした」と答えた。救助隊はその日のうちに、二人用だった担架を四人用へ作り替えた。
帰還すると、隊舎の壁に『重量支援主任』の札が掛けられていた。
そこへ片腕を吊ったグレンゾが竜車で現れた。
「戻れ。副隊長にしてやる。竜もお前を必要としている」
ユリサは救助用の鞍へ新しい魔法陣を描き終えた。
「竜騎士隊との任務契約は、追放状に署名された日に終了しています」