空席をはさんで
好きな人が休んだ日に、席替えがあった。
彼女のくじは先生が引き、僕の右隣になった。
喜んではいけない気がした。机だけを運び、空の椅子を置く。窓際の後ろから二列目。風でカーテンが膨らむたび、誰もいない席が呼吸しているように見えた。
次の日も、彼女は来なかった。
熱が続いているらしい。連絡先は知っていたが、個人的にメッセージを送ったことはない。クラスのグループには「大丈夫?」がいくつも並んでいたので、僕は何も書けなかった。
空席が隣にあると、妙に姿勢がよくなった。机がずれていれば直し、配られたプリントを彼女の引き出しへ入れた。数学の小テストは日付順に重ねた。誰に頼まれたわけでもない。
三日目、彼女の机に小さな落書きを見つけた。
『隣、誰?』
鉛筆で薄く書かれている。前の持ち主のものかと思ったが、文字に見覚えがあった。彼女が休む前、机の裏に書いたらしい。
僕はその下に、『僕』と書いた。
翌朝も彼女は来なかったので、消そうか迷った。子どもっぽい。勝手に机へ書くのもよくない。消しゴムを当てたところで、手が止まった。
その日の放課後、教室の後ろから声がした。
「消すの?」
振り向くと、彼女が立っていた。まだ顔色は白く、制服の上に大きなカーディガンを羽織っている。プリントを取りに来ただけだという。
彼女は自分の席に座り、落書きを読んだ。
「当たり?」
「何が」
「隣」
正直に言えばよかったのに、僕は「窓際だから」と答えた。
彼女は窓を見た。夕方の光が机に細長く落ちていた。
「私は当たり」
「窓際だから?」
「隣がプリントをきれいに入れてくれるから」
彼女は引き出しから小テストを取り出し、一枚ずつ眺めた。
「ノートも見せてくれる?」
「もちろん」
「じゃあ明日から来る」
「無理するなよ」
「隣が誰か分かったから」
それが理由になるのか聞けなかった。
翌日、彼女は一時間目から登校した。咳をするたび、僕は窓を少し閉めた。彼女は「暑い」と言い、また開けた。
席替えの期間中、机の落書きは消さなかった。
次の席へ移る日、彼女が『僕』の横に小さく丸をつけた。
まるで、くじの結果に正解をつけるように。