竹の皮の昼
地方線の鈍行列車で、捷は竹の皮に包んだ弁当を開いた。
祖父の四十九日を終え、東京へ戻る途中だった。駅弁を買うつもりでいたが、家を出る朝、叔母の槙が「余りもの」と持たせた。
紐をほどくと、竹の皮の青い香りがした。中には塩むすびが三つ、蕗の煮物、味噌を塗った焼き茄子。華やかではない。
祖父は山仕事へ行く日に、同じ包みを腰へ下げていた。子どもの捷が中身を欲しがると、塩むすびを半分くれた。祖父の手は木の皮のように硬く、握った飯は驚くほど柔らかかった。
列車は川沿いをゆっくり走る。窓を少し開けると、稲刈り後の土の匂いが入った。
向かいに座る小さな男の子が、包みを見つめていた。母親が止めるより先に、「それ、お弁当?」と訊く。
「そう。昔のお弁当」
捷が答えると、男の子は自分の新幹線柄の弁当箱を見せた。中には海苔巻きと葡萄が入っている。
交換はしなかった。ただ互いに一口食べては、どうだという顔をした。男の子は葡萄を食べ、捷は蕗を噛む。少し苦い味が、塩むすびによく合った。
終点が近づき、竹の皮を畳む。使い捨てるつもりだったが、捷は鞄へ戻した。乾けば軽くなり、それでも香りは残る。
東京の部屋に着いて包みを開くと、叔母が底へ入れた山椒の葉が一枚出てきた。捷はそれを小皿へ載せた。
窓の外を電車が走る。都会の音の中で、竹と山椒の匂いだけが、昼に通った川沿いの景色を静かに広げていた。
翌月、叔母から細長い荷物が届いた。新しい竹の皮と、祖父が使っていた紐だった。捷は休日に塩むすびを作り、近所の川まで歩いた。握り方が固く、形も揃わない。それでも皮を開いた瞬間、山の昼と列車の風が一緒に戻る。山椒の葉を一枚載せると、白い飯が急に故郷の弁当らしくなった。
余った一つは夕方まで包んでおいた。冷えたご飯には竹の香りが深く移り、昼より祖父の弁当に近かった。捷は半分を仏壇へ供える代わりに、窓辺へ置いた祖父の古い写真の前で食べた。塩が少し足りず、それも自分の味だと思えた。