第十三話の請求書

配信アニメの制作費精算会議で、小佐野弦は背景美術会社の進行担当として、制作委員会の鴇田プロデューサーと向き合っていた。全十二話の契約だったが、放送延期に伴う総集編が追加され、背景百二十点を納品した。

弦の会社は追加分四百八十万円を請求した。鴇田は「総集編は本編素材の再利用」として支払を拒み、逆に納期遅延金百万円を差し引く精算書を出した。

精算書には「第十三話 契約内」とある。だが元契約の話数欄は「全12話」。数字の12に二重線を引き、手書きで13へ直され、弦の会社の訂正印が押されていた。

弦は印影を拡大した。訂正印は会社の丸印に見えるが、文字が左右反転している。以前送った印影画像を裏側から写し、貼り付けたものだった。

鴇田はスキャン時に反転しただけだと言った。

弦は契約原本を出した。訂正のない十二話契約。さらに第十三話の発注メールには「新規背景百二十点、別途精算」とあり、鴇田の電子署名が付いていた。送信時刻は放送の三週間前だった。

遅延金の根拠も崩れた。納品期限は金曜午後六時とされているが、背景の仕様書が届いたのは土曜午前一時十四分。完成データの納品は翌週木曜。仕様受領から数えれば一日早い。

鴇田は、今後この業界で仕事をしたいなら、総集編程度は協力するものだと言った。

弦は百二十点のサムネイルを机へ並べた。夜景、駅、病室、雨の校庭。再利用ではなく、絵描きたちが眠らず描いた新規背景だった。

「協力は請求書を消す魔法ではありません」

弦は追加背景の制作記録を開いた。十二人の美術スタッフが合計八百四十時間を費やし、発注元の修正指示も五十七件あった。再利用なら存在しない作業量だった。しかも配信会社から制作委員会へは、総集編分の追加制作費が既に支払われていた。

委員会代表が精算書から承認印を離した。存在しない契約第十三話が、四百八十万円の支払を止めることはできなかった。