終身任命を消した勲章
王宮の叙勲式で、ネフェラの前に黄金の首飾りが掲げられた。
戦時中、敵国の暗号を解いた功績への褒賞だという。だが太い鎖を見ると、捕虜時代に首へ巻かれた鉄輪の感触が戻る。
王弟アストルは、彼女の顔色を見ただけで式典官を止めた。
「布章へ替えろ」
「最高位勲章は金鎖と決まっております」
「彼女は着けない」
アストルは兄王さえ恐れる軍務総監で、違反した将官をその場で解任する。けれどネフェラには三色の布を見せ、どれがよいか尋ねた。
「濃い青がいいです」
「それを」
彼は自分で留めようとせず、布章を卓上へ置く。ネフェラが自分の手で胸へつけるまで待った。
功績文の末尾で、式典官が続ける。
「併せてネフェラ嬢を、王弟殿下付き終身秘書官へ任ずる」
ネフェラは布章へ触れた。
「その任命は受けません」
広間が騒然となる。
「殿下が最も信頼される方ですよ」と宰相が諭す。「生涯おそばにいる栄誉です」
「三年契約なら働きます。終身は嫌です。辞める道を残したいです」
宰相はアストルへ視線を送った。
「殿下からご命令を。失いたくはないでしょう」
アストルは答えるまで一瞬だけ黙った。
「失いたくない」
ネフェラの胸が締まる。
「だからこそ、縛らない」
彼は任命書から「終身」の文字を削り、三年契約、更新自由、理由なしの辞職権を書き加えた。
「秘密を知る者を自由にするのですか」と式典官が問う。
「自由な者が残るから、信頼と呼べる」
アストルは新しい任命書をネフェラの前へ置く。
「読む時間は要るか」
「今、読みます」
全文を確認し、彼女は署名した。
王弟は金鎖を箱へ戻し、全廷臣へ告げる。
ネフェラは署名前に小さく尋ねた。
「終身を断って、残念ですか」
「残念だ」
アストルは嘘をつかなかった。
「だが余の残念は、余が引き受ける。おまえが生涯を差し出して解消するものではない」
その言葉で、契約の三年は恩返しではなく、彼女自身の選択になった。
さらにネフェラは、担当任務を事前に確認できる条項を求めた。
「断ることも?」
「認める」
アストルは一語も嫌な顔をせず追記させた。信頼という名で危険な任務を押しつける余地も残さなかった。
「ネフェラが受け取ったのは功績の証だけだ。余のそばに生涯いる義務ではない。褒賞を鎖へ変えた者は、余が裁く」