緑の丸が一つ多い
三百六十度評価の結果を告げる面談で、参加者一覧には五人の名前が並んでいた。
上司、人事、私、記録係、それから「Survey Support」。外部のアンケート業者だという説明だった。
私の平均点は一・八。匿名コメントには《威圧的》《成果を独占する》《会議で他人を黙らせる》と並んでいた。
上司は深刻そうに言った。
「これだけ複数の声が一致している。管理職登用は見送る」
私はコメントを書いた人数を尋ねた。
「五人全員だ」
その瞬間、参加者一覧の右端で、緑の接続丸が六つ光っていることに気づいた。名前のない接続が一つある。
人事に管理ログを開いてもらうと、Survey Supportは二重接続していた。一つは契約業者、もう一つはフリーメールのゲスト。ゲストは表示名を空欄にし、業者のタイルへ重なっていた。
上司は「技術担当の予備回線」と説明した。
私は評価システムの回答履歴を提示した。
五件あるはずの低評価のうち、四件は同じ端末識別子から、午前二時台に連続送信されている。その識別子は、いま隠れているゲストの接続端末と一致した。
ゲストのメールアドレスは、上司が週末に経営する研修会社の事務員だった。
上司は回答内容までは指示していないと言った。
だが共有ファイルの更新履歴に、《威圧的》《独占》《黙らせる》という三つの語を並べた下書きがあった。作成者は上司、更新時刻はアンケート送信の十二分前。
しかも会議招待のCCに、その事務員のアドレスが残っていた。
隠れていたゲストが退出した。
退出時刻と同時に、評価画面の「回答者五名」が「実回答者二名」へ変わった。正規の同僚二人が付けた点数は、どちらも五だった。
人事はアンケートの配布記録も確認した。正規の回答者三人には、上司が締切前日にリンクを無効化していた。一方、外部ゲストだけには四つの個別リンクを再発行している。「複数の声」は、同じ部外者へ配った四枚の入口にすぎなかった。
人事は見送り通知を取り消し、登用欄を開いた。
「平均一・八ではありません。正しい評価は五です」
上司が異議を唱える前に、承認ボタンが押された。
「管理職に上がるのは彼。評価権限を失うのはあなたです」