縁側を一枚ずつ

 長峰透子は、コールセンターの管理職として、毎日百人分の応答時間を見ていた。

 長すぎても短すぎてもいけない。数字の遅れを指摘し、声の調子を整え、自分の昼休みだけは後回しにした。

 会社を辞め、茶畑の村へ移ってからも、透子は何でも時間で測った。

 借りた古民家の縁側は、三枚の板が腐っていた。

 透子は一日で張り替えるつもりで木材をそろえた。ところが古い釘は抜けず、柱はわずかに傾き、一本目を外すだけで午前が終わった。

 隣の茶農家の男性が通りかかり、腰を下ろす。

「今日は一枚でいいんじゃない」

「三枚あります」

「明日も縁側はあるよ」

 透子は返事をせず、二枚目へ鋸を入れた。

 夕方には腕が震え、切り口も曲がった。結局、仮板を渡してその日は終えた。

 翌朝、男性が新茶の葉を籠に入れて持ってきた。

「昨日の一枚、ちゃんと踏めた」

 透子が見ると、最初に張った板だけ朝露を弾き、薄い光を返していた。

 その日から、一日一枚と決めた。

 板を外し、土台を乾かし、削って合わせる。午後には茶畑の手伝いへ行った。若い葉を親指と人差し指で摘むと、指先へ青い香りが移る。

「急いで摘むと茎まで入る」

 教えられ、透子は速度を落とした。

 籠はなかなか満たない。それでも葉の柔らかさを確かめる時間が、不思議と惜しくなかった。

 三日目、縁側がつながった。

 男性と並んで座り、摘んだばかりの茶を小さな急須で淹れる。湯を少し冷ましてから注ぐと、湯気に若草の匂いが立った。

「何分蒸らしますか」

「今日は、香りが出るまで」

 時計を見ない答えに、透子は笑った。

 夏には、縁側の板が日に焼け、三枚の色が少しずつ違っていた。

 透子はそこへ座布団を置き、昼になると必ず食事をした。村の人が通れば、一杯だけ茶を淹れる。話が長くなっても、応答時間を測る画面はない。

 夕暮れ、板の隙間から涼しい風が上がった。

 茶葉を焙じる香りが家の奥まで届き、透子の掌には鋸の小さなまめが残っている。

 一枚ずつ直した縁側は、急がなかった三日間をそのまま抱え、座る人の体温を静かに受け止めていた。