罪喰いの斧
処刑台には、魔女として捕らえられた三人の薬師が並んでいた。
執行人モーデンは、悪魔サグリアを宿す斧を持ち上げた。契約の斧は肉ではなく罪だけを斬る。無実なら刃は影のように通り抜ける。罪があれば、それを切り離す代わりに、罪は執行人の身体へ獣の形で移る。
裁判長ティルメは群衆へ宣言した。
「三人とも、子どもを呪い殺した。執行せよ」
モーデンは一人目へ斧を振った。
刃は首を傷つけず、空気だけを裂いた。何も移らない。
二人目も同じ。三人目も同じ。
群衆がざわめく。ティルメは顔を赤くした。
「悪魔の斧など証拠にならぬ。普通の刃で殺せ」
「ならば、裁判長にも試しましょう」
モーデンは壇上へ向き直った。
衛兵が槍を構える。だが罪喰いの斧は、一度振り始めれば契約相手以外には止められない。モーデンはティルメの影を横薙ぎにした。
刃が何かを引き抜いた。
彼の背中に、一本目の角が生えた。
孤児院の薬を横流しした罪。
二度目の斧で、右手が鉤爪になった。病死した子どもを呪殺に見せかけた罪。
三度目で、歯が獣の牙へ変わる。薬師たちへ罪を着せ、財産を没収した罪。
ティルメは膝をつき、若返ったように顔色を取り戻していく。罪を斬り離されるたび、彼の胸は軽くなる。それこそが、この斧の残酷さだった。悪人は清くなり、執行人だけが醜くなる。
「やめろ」と裁判長は笑い始めた。「すべて斬れば、私は無罪になるぞ」
「罪が消えても、事実は消えない」
モーデンは最後まで斧を振った。
背骨が曲がり、皮膚へ黒毛が広がり、声が唸りになる。その代わり、ティルメの口から、隠していた死体の場所、帳簿の在処、買収した衛兵の名が次々こぼれた。罪を失った男には、隠す理由もなくなったのだ。
群衆が裁判長を取り押さえ、薬師たちの縄を切る。
一人がモーデンへ近づいたが、彼の顔を見て足を止めた。
処刑台の上には、角と牙と鉤爪を持つ巨獣が立っている。腰の名札から「執行人モーデン」の文字が剥がれ、代わりに《罪獣》という焼印が浮かんだ。
「逃げろ、魔物だ!」と誰かが叫ぶ。
モーデンは斧を置いた。人の手ではなくなった指では、もう柄を握れなかった。
三人を救い、裁判を覆した執行人は、その朝から処刑人名簿ではなく、討伐対象の欄に記されることになった。