花嫁衣装の二重領収書
王都一の仕立屋が飾った婚礼見本会で、モーリス侯爵令息はロザリンドを壇上へ呼び出した。
「婚礼費から宝石代を二重に引き出し、片方を着服した。浪費家との婚約は破棄する」
観客の前へ、同じ金額が二行記された一枚の複写式領収票が投影される。二つの明細には、どちらもロザリンドの婚礼番号があった。
彼女は純白の見本衣装を見上げた。自分のために作られたはずのドレスなのに、丈も袖も合っていない。
採寸の日、モーリスは忙しいと言って一度も来なかった。それでもロザリンドは、王家との婚礼を務めとして受け入れ、刺繍職人の賃金だけは遅らせまいと帳簿を整えた。その几帳面さまで、二重請求の犯人らしさに変えられていた。
「この二つの明細は、どちらも私の注文ですか」
「そうだ。だから二重請求なのだろう」
ロザリンドは答えず、皇太弟カイエンへ目を向けた。見本会の監督者である彼は、その一枚を燭台へかざした。
王室仕立屋の領収書には、熱で一度だけ浮かぶ採寸影が封じられている。購入者本人の輪郭を写す、唯一の真正証明だ。
上段にはロザリンドの姿が浮かんだ。
下段に現れたのは、肩幅も背丈も異なる女性の輪郭。そして注文者欄には、モーリスの魔力署名が赤く燃えた。
彼が別の女性の衣装を婚礼費で買い、その代金をロザリンドの横領に見せかけたのだ。
「これは贈答だった」とモーリスが言い張る。「だが婚約を壊すほどではない。撤回してやろう」
「私の衣装を着る方を、ご自分で選ばれたのでしょう」
ロザリンドは見本の裾を持ち上げ、隠れていた短い丈を示した。
「でしたら、私の人生を着る方まで選ばないでください」
胸元の婚約飾りを外し、下段の明細へ置く。モーリスが手を伸ばしたが、彼女はその前で背を向けた。
カイエンは壇の下に立ち、礼装の手袋を外して手を差し出していた。彼の宮廷衣装院には、数字と人を同時に見られる責任者が必要だった。
ロザリンドは借り物の花嫁衣装ではなく、自分の靴で階段を下り、その手を取った。