茶色い夕食の許可

向坂いちかが冷蔵庫を開けたのは、日曜の午後五時二十六分だった。

中には味噌、使いかけのバター、半分の玉ねぎ、賞味期限が今日の納豆。野菜室には何もない。午前中にスーパーへ行き、五日分の食材を買う予定だった。買い物リストには、鶏むね肉、トマト、ほうれん草、ヨーグルトと、健康そうな字が並んでいる。

昨夜は一時まで動画を見ていた。それでも十時には起きられると思っていた。目が覚めたときには夕方で、配達アプリの当日枠もすべて埋まっていた。

いちかは冷蔵庫の前に座り、食材宅配の画面を行き来した。最低注文額まで、あと千七百円。必要のない菓子や飲料を足せば届く。けれど、眠って過ごした罰として余計なお金まで払うようで、注文ボタンを押せなかった。

棚の奥に、開封したオートミールとコーン缶があった。見た目のいい料理にはならない。そう思いながら、小鍋へ水とオートミールを入れ、味噌を溶いた。コーンを半分、バターを少し落とす。

煮えていく鍋は、黄色と薄茶色だけだった。スマートフォンで「簡単 栄養 休日」と検索しかけ、やめる。検索すれば、卵も葉物も胡麻も載った正解が出てくる。今の台所には、その正解を真似する材料がない。

器へ移すと、湯気の向こうでコーンだけが光った。納豆は明日の朝に残した。買い物リストは消さず、日付だけ月曜へずらした。

一口食べると、味噌とバターは意外に合った。茶色い夕食は、休日を上手に使えなかった人の罰ではなく、ただ今あるものから作った夕食だった。

冷蔵庫に貼った先週のレシートには、サラダと果物と豆腐が並んでいた。あの買い物をした自分も、今日買い物へ行けなかった自分も、同じ部屋で暮らしている。毎週同じようにできないことを、生活が壊れた証拠にしなくていい。いちかはコーン缶の残りへラップをかけた。

器の縁には味噌が一滴ついたが、いちかは拭かなかった。食卓らしく整えなくても、座って食べ終えれば夕食は夕食だった。

一食に、栄養も彩りも人生の立て直しも全部任せなくていい。いちかは鍋を水につけ、茶色い器を両手で包んだ。