荷運び人と落ちてくる砦
峡谷砦の通行料は、昨日まで銀貨二枚だった。
今朝、山賊頭ラーナクは百枚に値上げした。払えない商隊から荷を奪い、抗議した者は崩れかけた城壁の下へ並べる。
荷運び人アゼルドは、請求書を三度見直した。
「桁を間違えていませんか」
「間違いなら、お前の命で訂正してやる」
ラーナクが指を鳴らすと、部下が壁の留め具を外した。峡谷へ張り出した城壁は、商人と荷馬車へ向かって倒れ始める。
アゼルドは請求書を折り、胸ポケットへしまった。両足を開き、荷車の前で腰へ手を当てる。
「荷物を壊すと、弁償ですよ」
石壁が落ちた。
谷を塞ぐほどの土煙が立ち、山賊たちは咳をしながら荷札を拾い始めた。ラーナクも笑っていたが、やがて眉をひそめた。
煙の中で、荷馬が鼻を鳴らしている。
あれほどの崩落なら、馬は潰れるか、少なくとも暴れる。だが鈴の音は一定で、出発を待つときと同じだった。
煙が晴れる。
アゼルドは同じ姿勢で立っていた。腰へ両手を当て、少し前屈みになっている。荷車の葡萄酒瓶は一本も割れず、彼の頭上に落ちた石だけが、小麦粉のような粉になって幌へ積もっていた。
商隊主が震えながら、アゼルドの雇用札を裏返した。雇用年数の欄には八十七年とある。冗談だと思い、毎年同じ数字を写してきたという。山賊たちは白髪一つない荷運び人と札を見比べた。
商人たちは荷車の陰から顔を出した。彼が一度も病欠せず、祖父の代から同じ顔で荷を担いでいることを、今さら思い出した。ラーナクは札を偽物と罵ったが、砦より古い商会印まで否定はできなかった。
「鎧の魔道具だ!」
「作業着です。昨日、洗いました」
山賊たちの笑いが消える。
ラーナクは自慢の〈岩砕き槌〉を担いだ。一振りで関所を壊し、この砦を奪った武器だ。魔石を全開にし、アゼルドの額へ叩きつける。
衝撃で残った胸壁が落ち、二度目の煙が舞った。
アゼルドは腰へ手を当てたまま、ため息をついた。
「荷扱いが荒いですね」
槌頭には、彼の額へ触れた一点から網目の亀裂が走っていた。ラーナクが慌てて引くより早く、〈岩砕き槌〉は柄まで砕けた。