蝋燭ひとつぶんの夜明け
「光量、蝋燭一本分。しかも熱なし。無能の見本だ」
聖騎士団の鑑定祭で、団長ザフィードはエゼンの小さな光球を手袋で払いのけた。
【技能:《灯点》――視界内の一点に、蝋燭一つ分の光を固定する】
炎術師なら街路を昼にできる。聖術師なら亡者を焼ける。エゼンの光は、風にも消えない代わりに、紙一枚焦がせなかった。
その夜、百年ぶりの皆既蝕が王都を覆った。
地下聖堂の封印が弱まり、石棺から影の軍勢が溢れ出す。聖騎士の剣は闇に呑まれ、太陽が戻るまで持ちこたえられない。
唯一の切り札は、聖堂最上部の《暁鏡》。古代のレンズと鏡を重ね、朝日を千倍の聖光へ変える装置だった。だが蝕の空に、入れるべき朝日はない。
「火を焚け!」
松明を束ねても、鏡の入口で光が散るだけだった。
エゼンは装置の図を見上げた。前世で天体望遠鏡を組み立てたことがある。光を入口から押し込む必要はない。増幅の始まる焦点に、直接置けばいい。
問題は、焦点が水晶筒の中央、誰の手も届かない場所にあることだった。
だからこそ、彼の技能が届く。
「蝋燭一つで足ります」
エゼンは透明な筒の奥へ狙いを定め、《灯点》を置いた。
最初は、本当に針の先ほどの明かりだった。
次いで第一鏡が光を拾い、第二鏡が束ね、十二枚の聖晶が色を白へ研ぎ澄ました。暁鏡の中で一滴の光が川になり、塔の頂から巨大な柱となって地下聖堂へ落ちる。
影の軍勢が声もなく消えた。石棺の蓋が次々と閉まり、王都を覆っていた冷気が退く。
蝕はまだ続いている。それでも聖堂だけには、真昼があった。
ザフィードは焼け焦げた外套のまま、エゼンの前へ歩いた。団長の手には、祭で捨てた鑑定札がある。
「この光は、蝋燭一本分だったはずだ」
「はい。置く場所を間違えなければ、それで十分です」
聖騎士団長は長い沈黙の後、自分の胸の太陽章を外した。
「我々は大きな光ばかり求め、焦点を見る者を持たなかった」
章がエゼンの胸に留められる。
「今日から暁鏡の管理者はおまえだ。二度と無能とは呼ばせん」