西日の鉢植え
在宅勤務の女性は、机の横に背の高い観葉植物を置いていた。
娘が家を出る日に置いていった物で、
「水は週一回。西日は避けて」
と紙に書いてある。
仕事が忙しくなると、女性は鉢を邪魔に思った。
会議画面へ葉が映る。
椅子へ枝が触れる。
毎朝、部屋の隅へ少しずつ追いやった。
園芸店で買った翻訳用の霧吹きを葉へ一度かけると、日没時に植物が一文だけ話した。
最初の言葉は、
「今日も、椅子が空いている」
だった。
女性は娘の椅子のことだと思った。
家を出て半年。
連絡は月に一度で、用件だけ。
喧嘩して出たわけではないが、娘は帰ってこない。
「寂しいの?」
翌日、霧をかけて尋ねた。
日没。
「光が来る場所を、毎朝遠ざける」
植物の話だった。
女性は紙の注意に従い、西日を避けているつもりだった。
けれど部屋の隅は、一日中暗い。
鉢を窓の近くへ戻した。
葉が少し明るく見えた。
三日目、女性は娘のことを聞いた。
「この子、私を嫌ってる?」
日没まで返事を待った。
「根は、葉が離れた方向を知らない」
植物は人間の関係を説明してくれなかった。
ただ根元の土が固くなり、水が端を流れるだけで中へ染みていないと訴えた。
女性は鉢を大きな物へ植え替えた。
根は中で何重にも回り、自分の形を狭くしていた。
娘が置いていった日のまま、外側だけ育てようとしていたのだ。
植え替えの写真を娘へ送った。
「根が窮屈だった」
返事はすぐ来た。
「ずっと言おうと思ってた。鉢、小さいよって」
女性は少し腹が立った。
「言えばよかったでしょう」
送信してから、自分も同じだと思った。
「帰ってこないから寂しい。でも、戻って住んでほしいわけではない」
と続けた。
娘から長い返信が来た。
一人暮らしが楽しいこと。
仕事で失敗したこと。
母に相談すれば、帰ってくればいいと言われそうで怖かったこと。
女性は、
「帰らなくていい。たまに電話して」
と答えた。
霧吹きはその後、使わなくなった。
植物は普通の葉音しか立てない。
新しい鉢では、根がどちらへ伸びるか見えない。
娘もどこへ伸びるか分からない。
女性自身も、仕事以外の時間をどう使うか決めていない。
ただ毎夕、鉢を光の届く場所へ置く。
遠ざけないことと、引き戻さないことの間に、植物も家族も育てる余白があった。